日清にっしん)” の例文
ところが日清にっしん戦争、連戦連勝、軍隊万歳、軍人でなければ夜も日も明けぬお目出度めでたいこととなって、そして自分の母といもととが堕落した。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
内奥に於て如何いかにその外観とちがっているかは、かの日清にっしん・日露等のえきに於ける兵士の軍歌(雪の進軍と、此処ここは御国を何百里)
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
日清にっしん戦争が起こったころから葉子ぐらいの年配の女が等しく感じ出した一種の不安、一種の幻滅——それを激しく感じた葉子は
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
銘酒屋を題材にして『濁り江』という抒情的じょじょうてきな傑作を書いたのも、それから十年も前の日清にっしん戦争の少し後のことであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
日清にっしん戦争がはじまってからも、水師提督はおしかさんを忘れなかったのだということを、お安さんは知っていたという。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日清にっしん戦争の頃で、かつ陸海軍の軍人の沢山住んでいた土地柄、勲章をぶらさげて意気揚々として通る将校が多かった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その上日清にっしん事件の影響から、海産物に及ぼした損失もこれで埋合せがつくというもの。いや首尾よくやって見たいものだ。とわれを忘れて調子づく。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
その後平壌へいじょうに参り、日清にっしん戦役の古戦場たる牡丹台ぼたんだいをたずね、さらにその山麓の大同江に面する永明寺を訪問した。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それに日清にっしん戦争の当時ですから、その頃は珍らしかった、戦争の油絵が、一方の壁にずっと懸け並べてあります。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その頃の私には知るよしもない何かの事情で、父は小石川の邸宅を売払って飯田町いいだまちに家を借り、それから丁度日清にっしん戦争の始まる頃には更に一番町いちばんちょうへ引移った。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電燈などもその十年前の日清にっしん戦争の頃からついているのだそうで、松島座、森徳座では、その明るい電燈の照明の下に名題役者なだいやくしゃの歌舞伎が常設的に興行せられ
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日清にっしん戦争は終っていたが、なお童心の世界にまで、世間の色や物音が尾を曳いていたものにちがいない。
今の朝日敷島の先祖と思われる天狗煙草の栄えたのは日清にっしん戦争以後ではなかったかと思う。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山木が田崎に向かいて娘お豊を武男が後妻こうさいにとおぼろげならず言いでしその時は、川島未亡人とお豊の間は去る六げつにおける日清にっしんの間よりも危うく、彼出いだすか、われづるか
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しばらく西太后せいたいこうで持ち切っていたが、やがてそれが一転して日清にっしん戦争当時の追憶になると、木村少佐は何を思ったか急に立ち上って、室の隅に置いてあった神州日報のじこみを
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日清にっしん戦役が済んで遼東還附りょうとうかんぷに関する問題がかまびすしく、また、東北三陸の大海嘯だいかいしょうがあり、足尾銅山鉱毒事件があり、文壇では、森鴎外の『めさまし草』、与謝野鉄幹よさのてっかんの『東西南北』が出たころ
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
日清にっしん 日露にちろ 日華にっか とじゅんをおって古びた石碑せきひにつづいて、新らしいのはほとんど白木しらきのままのちたり、たおれているのもあった。そのなかで仁太や竹一や正のはまだ新らしくならんでいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
一度、それは日清にっしん戦争凱旋がいせんの時である。大阪全市が数日間踊り続けた事があった。その時私はそれこそ妙な縮緬ちりめんの衣裳を着せられた。腰には紅白だんだらの帯がぶら下っていたのを覚えている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
さき北米ほくべい合衆国に対して宣戦を布告し、吾が陸海軍は東に於て太平洋に戦機をうかがい、西に於ては上海シャンハイ比律賓フィッリピンを攻略中であるが、従来の日清にっしん日露にちろ日独にちどく、或いは近く昭和六七年に勃発せる満洲
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
主人は何でも日清にっしん戦争の時か何かに死んだのだと上さんがいいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
倉地が日清にっしん戦争にも参加した事務長で、海軍の人たちにも航海業者にも割合に広い交際がある所から、材料の蒐集しゅうしゅう者としてその仲間の牛耳ぎゅうじを取るようになり
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日清にっしん戦争が始まった。「支那も昔は聖賢の教ありつる国」で、孔孟こうもうの生れた中華であったが、今は暴逆無道の野蛮国であるから、よろしく膺懲ようちょうすべしという歌が流行はやった。
日清にっしん戦争に琵琶びわを背負っていって、偉く働らいたり琵琶少尉の名ももろうたりしたが、なんやらそれで徹したものがあって、京極流も出来上ったが、あの人は、なんであんなに
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日清にっしん両国の間の和がこうぜられてから、一年ばかりたった、ある早春の午前である。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの時からすると見違えるように変わられましたな。わたしも日清にっしん戦争の時は半分軍人のような生活をしたが、なかなかおもしろかったですよ。しかし苦しい事もたまにはおありだろうな」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしそれと同時に日清にっしん戦争を相当に遠い過去としてながめうるまでに、その戦役の重い負担から気のゆるんだ人々は、ようやく調整され始めた経済状態のもとで、生活の美装という事に傾いていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはちょうど日清にっしん戦争が終局を告げて、国民一般はだれかれの差別なく、この戦争に関係のあった事柄や人物やに事実以上の好奇心をそそられていたころであったが、木部は二十五という若いとし
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)