敏捷すばしこ)” の例文
お吉は小作りなキリリとした顏立の女で、二人の田舍娘には見た事もない程立居振舞が敏捷すばしこい。黒繻子の半襟をかけた唐棧たうざんの袷を着てゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
金春家の主人はさう聞いて、直ぐ手を延ばして香を取り戻しにかゝつたが、豊和は敏捷すばしこ内懐中うちふところにしまひ込んでしまつた。
井戸端で立ち廻りをやるのを、家の者が知らずに居る筈もなし、第一、人間の眼は八五郎兄哥の前だが、何處かの岡つ引きよりは、餘つ程敏捷すばしこいぜ。
犬はグウとうなった。そしてキャ、キャーン! ともう一声飛び上ると、この犬がどうしてこんなに敏捷すばしこくと思われるほどの速さで、一目散に扉の外へ飛び出した。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
これを聞いた一座は、ことに外国人たちは、椅子いすから乗り出すようにして夫人を見た。夫人はその時ひとの目にはつきかねるほどの敏捷すばしこさで葉子のほうをうかがった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
力瘤ちからこぶを叩けば、得三は夥度あまたたびこうべを振り、「うんや、汝には対手が過ぎるわ。敏捷すばしこい事ア狐の様で、どうして喰える代物じゃねえ。しかしすきがあったら殺害やッつけッちまえ。」
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新しい艶のある洋服を着て、襟飾えりかざりの好みもうるさくなく、すべてふさはしい風俗のうちに、人を吸引ひきつける敏捷すばしこいところがあつた。美しく撫付なでつけた髪の色の黒さ。頬の若々しさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
で、長い梯子を見上ているとんでも猿のように自分が敏捷すばしこく走って上って行って桶の裡を覗いて見て、また敏捷く走って下りて来る時の様子がありありと目に浮んだ。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「実に言語道断の敏捷すばしこい奴じゃ、掏摸すりどもの仲間に相違あるまい、あれあの通り」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜の驚波に投ずる燈火あかり、腰蓑を濡した鵜師の休みなき動作、敏捷すばしこく潜つては浮く水鳥の影、或は水上に胸を浮べるもの、その高く銜へた嘴には魚がをどり、或は舟に上つて濡羽を震ふもの
三次の鵜飼 (新字旧仮名) / 中村憲吉(著)
あまりに敏捷すばしこくやられたので、可哀相かあいさうちひさな陪審人ばいしんにんは(それは蜥蜴とかげ甚公じんこうでした)茫然ぼんやりしてしまひました、くまなくさがまはつたが見當みあたらず、餘儀よぎなくはそれから一ぽんゆびいてゐました、が
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
どんなにコロボックンクルは喫驚びっくりしたことでしたろう、又恥しがったことでしたろう! いかに敏捷すばしこいと言ったところが、そういう風に乱暴な男に捉まえられたのでは、どうにも仕様がありません。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
まばたくを、また敏捷すばしこいやさ指が
お吉は小作りなキリリとした顔立の女で、二人の田舎娘には見た事もない程立居振舞が敏捷すばしこい。黒繻子くろじゆすの半襟をかけた唐桟たうざんの袷を着てゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
井戸端で立ち廻りをやるのを、家の者が知らずにいるはずもなし、第一、人間の眼は八五郎兄哥あにいの前だが、どこかの岡っ引よりは、よっぽど敏捷すばしこいぜ。
敏捷すばしこい広業は画絹が取出されたのを見ると、いつの間にかかはやに滑り込んで、そのまゝそこで居睡ゐねむりをしてゐたのだ。
葉子はわき目にもこせこせとうるさく見えるような敏捷すばしこさでそのへんに散らばっている物を、手紙は手紙、懐中物は懐中物、茶道具は茶道具とどんどん片づけながら、倉地のほうも見ずに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ハイ」と妹の方が敏捷すばしこく答えた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
工場にも行つて見た。活字を選り分ける女工の手の敏捷すばしこさを、解版台の傍に立つて見惚みとれて居ると、「貴方は気が多い方ですな。」と職長の筒井に背を叩かれた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ハイ」と妹の方が敏捷すばしこく答えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信吾に限らず、男といふ男は、皆富江の敏捷すばしこい攻撃を蒙つた。富江は一人ではしやぎ切つて、遠慮もなく對手の札を拔く、其拔方が少し汚なくて、五囘六囘と續くうちに、指に紙片で繃帶する者も出來た。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
信吾に限らず、男といふ男は、皆富江の敏捷すばしこい攻撃を蒙つた。富江は一人ではしやぎ切つて、遠慮もなく対手の札を抜く、其抜方が少し汚なくて、五回六回と続くうちに、指に紙片かみきれで繃帯する者も出来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
梅野は敏捷すばしこく其手を擦り抜けて、卓子テイブルの彼方へ逃げた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)