掻曇かきくも)” の例文
折から一天いってんにわか掻曇かきくもりて、と吹下す風は海原を揉立もみたつれば、船は一支ひとささえささえず矢を射るばかりに突進して、無二無三むにむさんに沖合へ流されたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洗ふ水音みづおと滔々たう/\として其の夜はことに一てんにはかに掻曇かきくも宛然さながらすみながすに似てつぶての如きあめはばら/\と降來る折柄をりから三更さんかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小夜さよけてから降り出した小雨こさめのまた何時いつか知らんでしまった翌朝あくるあさ、空は初めていかにも秋らしくどんよりと掻曇かきくもり、れた小庭の植込からはさわやかな涼風が動いて来るのに
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たゆたひて、知らずや、かしこ掻曇かきくもよる一天いつてん
日中ひなか硝子ビイドロを焼くが如く、かっと晴れて照着てりつける、が、夕凪ゆうなぎとともにどんよりと、水も空も疲れたように、ぐったりと雲がだらけて、煤色すすいろの飴の如く粘々ねばねば掻曇かきくもって、日が暮れると墨を流し
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくて、數時間すうじかんたりしのち身邊あたり人聲ひとごゑさわがしきに、旅僧たびそうゆめやぶられて、ればかはやすあきそらの、何時いつしか一面いちめん掻曇かきくもりて、暗澹あんたんたるくもかたちの、すさまじき飛天夜叉ひてんやしやごときが縱横無盡じうわうむじん𢌞まはるは
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)