懲々こりごり)” の例文
一つは前夜の横波で苦んだ事にも懲々こりごりしていたので、初は僕が同意せなかったにもかかわらず、遂に命令的に上陸の支度をさせた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
しかしそう申すと嫁に参ってから悪い事ばかりあって懲々こりごりしたように聞えますが一方には段々良人の情愛が解って参りますし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
吾輩が例の茶園ちゃえんで彼に逢った最後の日、どうだと云って尋ねたら「いたちの最後屁さいごっぺ肴屋さかなや天秤棒てんびんぼうには懲々こりごりだ」といった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ねえ君ちゃん、イカサマをやって人の目をくらますと、こんな思いをしなくっちゃあならねえ、もう印度人には懲々こりごりだ」
「驚いたなあ、あきれた小父さんだなあ。——もう懲々こりごりしたろうから、今日は来まいって、先生も仰っしゃっていたのに」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だけど私、過日こなひだでモウ皆に笑はれて、懲々こりごりしてるんですもの。ぢやけて下さいつて、欺して逃げて来たもんだから、野村さんに追駆おつかけられたのよ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それどころですか。私、ひどい目にあっちゃった。もう懲々こりごり、これからはもう御一緒にれて来て頂きませんわ」
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
母 私は自分で懲々こりごりしとるけに、たねは財産よりも人間のええ方へやろうと思うとる。財産がのうても、亭主の心掛がよかったら一生苦労せいで済むけにな。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日本人の余り近代人ばなれのした乱暴さにさすがに出鱈目でたらめ露西亜ロシア人も懲々こりごりしてステッセルと云う将軍が子供をあやすように仲直りをしてくれと云ってきたこと
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「とんでもない。私はもうあの女は懲々こりごりで、向うから給金を持って来ても、一座には御免を被ります」
山の肩のところに歩哨を一人だけ立たせておけばいかに不意に襲って来ても十分大丈夫だったし、その上、彼等は戦闘にはもう十二分に懲々こりごりしていると私たちは思ったのだ。
風采の好のはまだ外にあるの、御馳走さまどこに、どこにって泣通したじゃないかと云うと、小歌は婢の口を抑えるようにして、あれは言ッこ無し黒の羽織には懲々こりごりしたといっ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
その後別に怪しい噂も無かったのを見れば、河童小僧、飛んだ目に逢って懲々こりごりしたのであろうか、兎にかくその小僧の尻に金銀の眼が光っていた事は、福島金吾確かに見とどけたと云う事。
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「先の上さんのような、しなしなした女は懲々こりごりだ。何でも丈夫で働く女がいいと言うのだそうだから、島ちゃんなら持って来いだよ」姉は肥りきったお島の顔を眺めながら揶揄からかったが
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから馬鈴薯には懲々こりごりしましたというんです。何でも今は実際主義で、金が取れて美味うまいものが喰えて、こうやって諸君と煖炉ストーブにあたって酒を飲んで、勝手な熱を吹き合う、腹がすいたら牛肉を
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だが守青年はもう懲々こりごりしていた。探偵小説は面白い、併しそれが一度ひとたび現実の事件となると、面白いどころではなかった。彼は妖虫殺人事件に於て、あらゆる苦しみと悲しみとを味わった。もう沢山だ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それにもう一つ率直に云えば、私は異性に懲々こりごりしていた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ですから、あたしは、貴方あなたの前ですけど、もうもう男は懲々こりごり
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「今少し働き者だろうと思っていたのに、ほんにあきれた奴だ。もう懲々こりごりだ、ほんとにこりた。誰が何と言っても、石にかじりついても独りで暮した方がよかった。あの時からずっとお前と二人きりでいたら、こんなにも落ちぶれはしなかったろうに」
... 一度で懲々こりごりさせるのと同じようなものです」小山の妻君「なるほどそういう事もありましょうね。松茸は全体どういう土地にあるのがいいのでしょう」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十万の元兵、数百の艨艟もうどう、すべてを日本に失ってから、さすがに懲々こりごりしたか、その後はって来なくなった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは後の事だが、それに懲々こりごりして、文部省勤務中は演説事は断って全くせなかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「何だか手数のかゝるお話でございますのね。子供のお客様ごっこじゃありますまいし、お返ししたものを、また返していただくなんて、もう一度お預かりした丈で、懲々こりごりいたしましたわ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「私はもう、あんな女達に掛り合うのを懲々こりごりして居りました」
おどかしちゃいけません、もう懲々こりごりでございます」
「鶴さんで懲々こりごりしている!」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『春作が、それを手に入れたら、夫婦いっしよになってあげてもいいね。江戸を売って、京都あたりでちんまりと暮してみたい。もう、こんな碁会所なんて懲々こりごりだから——』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中川君、僕はモー懲々こりごりしたからその後は一切いっさい固形物を食わん。毎日ソップを配達させてソップと牛乳ばかり沢山飲んでいるがなかなかまだ快方に向わん。一度腸胃を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それを直ぐペースに使いますからこういうのを召上るとモチモチして歯へ付いて食べたあとが胸に持って一度で懲々こりごりなさいましょう。パイばかりは拵え方で味が非常に違います。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
諸洞の軍勢が力をあわせて叩きつぶせば、蜀帝も懲々こりごりして、二度と俺たちの国へ指もさすまい
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何の、もう前のような暮しは懲々こりごりじゃ。どうぞしばらくの間は、何も構わず、ほっておいて下されいの、我儘な姉を持って、定めしそなたさまも大奥で肩身が狭かろうが……」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤茄子の中をくり抜いて胡瓜きゅうり茄子なすへ肉を詰めた通りに詰めてテンピで焼いても結構です。何でも最初食べ馴れない物を人に御馳走する時は不味まずく拵えて懲々こりごりさせるとモーいけません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その事件では親の祐親ににらまれ、流人るにんずれがと、ふた口めには云われる頼朝は、ずいぶん辛き目にあって、懲々こりごりしているはずであるのに、いつか彼の側には、変った女性がかしずいて、時には
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、懲々こりごりしたように云った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)