愚図ぐず)” の例文
旧字:愚圖
愚図ぐず愚図してるんだ! おれがこうして、さり気なく話のばつを合わして足停あしどめしておくあいだに、すっかりこの家の廻りにも手配てはい
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
じゃなぜ不平だというと、金が取れないからだ。ところがあいつは愚図ぐずでもなし、馬鹿でもなし、相当な頭を持ってるんだからね。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この愚図ぐずのフランス人らがそんな大きな胃袋をもってるのに、クリストフは感嘆させられた。だが彼らはそれくらいのことには平気だった。
「さあ出掛けよう、君はゆっくりしていらしって下さい。」と言いながら「なにを愚図ぐず愚図しているんだ。出かけよう。」
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「やっぱり愚図ぐず々々していちゃ危険だ」と眠っていたとばかり思っていた青年がその時出しぬけに起き上がって言った。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そして雷横とともに、なおそこらを愚図ぐずついたあげく、一度門外へ出て、手下の捕手へわざと仰山な身振りで言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ボウルドの前へ出ようとして中戻ちゅうもどりをしたり、愚図ぐず々々まごついてる間に、たくが鳴って、時間が済むと、先生はそのまんまでフイと行ってしまうんだッて。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意気いきでも野暮やぼでもなく、なおまた、若くもなくけてもいない、そしてばかでも高慢でもない代りに、そう悧巧りこうでも愚図ぐずでもないような彼女と同棲しうるときの
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今から思うとまことに詰まらないことだが、子供の頭は大人と違う。学校がいやになって時々愚図ぐずを言った。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
愚図ぐず々々と都会生活の安逸にひたっていたのが失敗の基である、その点やはりあなたがたにも罪はある、それにまた、罹災りさいした人たちはよく、焼け出されの丸はだかだの
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「馬鹿野郎、吾らはそんな世迷言にかす耳を有たぬぞ、こうなった上は一寸の光陰も軽んずべからずだ、愚図ぐず愚図ぐずすればち殺されるぞ、生命が惜しくば早く下れ下れ!」
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
やはりなにかで叱られたか、若しくは自分の願いが退けられたかして、私は愚図ぐずついていた。母は台所でなにか用をしていた。私は茶の間にいた。ほかに誰もいなかった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
のろまで愚図ぐず悟浄ごじょうのことゆえ、翻然大悟ほんぜんたいごとか、大活現前だいかつげんぜんとかいったあざやかな芸当を見せることはできなかったが、徐々に、目に見えぬ変化がかれの上に働いてきたようである。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
生来うまれつき頭脳あたまはそんなに悪いとは思いませんけれど、いたって挙動が鈍く手先が不器用ですから、小学校時代には「のろま」中学校時代には「愚図ぐず」という月並な綺名あだなを貰いました。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「おれは、こういう愚図ぐずが死ぬほど嫌いなんだ!」そして、今度は声を張りあげて、こう言い足した。「じゃあ、勝手にしろよ、家へ帰って女房とさんざいちゃつくがいいや、助平野郎め!」
愚図ぐず々々していれば、逃げられてしまうかどうか分からない』
想い出 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
急に繁は節子の方へ行って何物かを求めるように愚図ぐずり始めた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
愚図ぐず々々しているから、そんなのに当るんだで。」
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
「お前さんはいつもそれだからいけないんだよ。いつもどうでもいいだろうと来るんだものね。お前さんがしっかりしてくれなくちゃ困るじゃないか。どうしてそう愚図ぐずなんだろうね。お酒ばかりくらってさ……。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
(病人なら病人らしく死んじまえ。なおるもんなら治ったらかろう。何んだって愚図ぐずついて、わずらっているんだ。)
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ愚図ぐずな貧しい心から自分の生れつきをそんなに悲しんではいないだけである。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
たまに雑誌社の人が私のところに詩の註文を持って来てくれると、私をさし置いて彼女自身が膝をすすめて、当今の物価の高い事、亭主は愚図ぐずで頭が悪くて横着で一つも信頼の出来ぬ事
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貧弱なる日本ではあるが、にはこれほどまでに愚図ぐずそろって科学を研究しているとは思えない。その方面の知識にうと寡聞かぶんなる余の頭にさえ、この断見だんけんを否定すべき材料は充分あると思う。
学者と名誉 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちッ。愚図ぐずだなあ武大さんときたら。何をまごまごしてるのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取っかれた番頭の兼七、すべったころんだど愚図ぐずっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ええ、何を愚図ぐず々々、もうお前様方めえさまがたのように思いつめりゃ、これ、人一人殺されねえことあねえはずだ。吾、はあ、自分で腹あ突いちゃあ、旦那様に済まねえだ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
校長ってものが、これならば、何の事はない、らない愚図ぐずの異名だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勝気な人なのですが、私の愚図ぐずなのがただいとしまれるのでしょうか、いつも私の気の引き立つように仕向けてくれます。お母さん、私達はまたあなたのことをも話しあうようになりましたよ。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
「何を愚図ぐず愚図申しおる」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
呼べ、と言えば、おんなどもが愚図ぐず々々ぬかす。新枕にいまくら長鳴鶏ながなきどりがあけるまでは待かねる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愚図ぐず々々ぬかすと、処々に伏勢ふせぜいは配ったり、朝鮮伝来の地雷火が仕懸けてあるから、合図の煙管きせるはたくが最後、芳原はくうへ飛ぶぜ、と威勢の懸合かけあいだから、一番景気だと帳場でも買ったのさね。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)