悪戯者いたずらもの)” の例文
飛んでもない悪戯者いたずらものへ、あらゆる方法で捕獲の手が試みられた。だが、彼はそれに対してトンボや綱渡りをむくいて見せるだけだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日ならずして、彼は二三の友達をこしらえた。そのうちで最も親しかったのはすぐ前の医者の宅にいる彼と同年輩ぐらいの悪戯者いたずらものであった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはまた、佳人薄命、懐玉有罪、など言って、私をして、いたく赤面させ、狼狽させて私に大酒のませる悪戯者いたずらものまで出て来た。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
不連続線という悪戯者いたずらものがなかったら、二人のうちのどっちかは、間もなく日本海を航行中の汽船のうえに助けられたかもしれないのだ。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神田の悪戯者いたずらものが娘番付をこしらえて、東の関脇に据えた容色きりょう、疲れと怖れに、少し青くはなっておりますが、誰が眼にも、これは美しい娘でした。
あの小僧はふだんから悪戯者いたずらものだけに、持っている松明たいまつを叩きつけて、一生懸命に逃げ出してあぶない所を助かったそうだ。
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あくまで残忍な悪戯者いたずらものは、その身悶えするさまを快げに打ち眺めていたが、時分はよしと、やにわに抜く手も見せず、犬の頭をねてしまった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「これで正体がほぼわかった! もう心配をする必要はない。黙って放抛うっちゃっておくんだね。そのうちに僕が悪戯者いたずらものの沙漠の霊を捉らまえてやる」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
前に竜之助を踏み越えたそれより小さい物体も、珍しいものではない、ドコにもいる鼠という悪戯者いたずらものであったのです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「うまくいった。これで秘密が探れる。底の底までわかる。悪戯者いたずらもの放蕩ほうとうに手をつけることができる。種本を手に入れたようなものだ。写真もある。」
ところで、その厳粛な顔をした悪戯者いたずらものが、だいたいどういう具合に人間神経の排列を変形させてゆくものだろうか、ここにちょうど恰好な例があるのだがね
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
というのは先生と我輩とは以上の如く犬猿けんえんの間柄で、一方は民間学者の暴れ者、一方は役人の暴れ者、これを噛み合してみたら面白かろうというので、いわば悪戯者いたずらものどもが
鼠に関しては自分も少し書いてみる用意があり、伊波普猷いはふゆう君もすでに論じておられるが、ともかくもこの小さな悪戯者いたずらもの出自しゅつじはニルヤであると、昔の島人らが信じていた証拠は幾つか有る。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
悪戯者いたずらものどもはそれを面白がっていたが、後には諢名あだなをつけて孫痴そんちといった。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
妻は燃えかすれる囲炉裡火に背を向けて、綿のはみ出た蒲団ふとんかしわに着てぐっすり寝込んでいた。仁右衛門は悪戯者いたずらものらしくよろけながら近寄ってわっといって乗りかかるように妻を抱きすくめた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし翻って考えてみるに、人を見て法を説けという言葉もあり、この計画は雑誌社の人に対してはまず適用されないと思った。私もそこまでは悪戯者いたずらものではない。人の営業妨害などはしたくない。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
「その代り、静夫みたいな悪戯者いたずらものが居るから、気をおつけなさい。」
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
警察はこのご念の入った悪戯者いたずらものをきびしく捜索することになった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小夜子にもちょっと悪戯者いたずらものらしいところがあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
逃後にげおくれて間拍子を失った悪戯者いたずらもの
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中野お犬小屋の犬を、一夜に何十匹も殺した天下の悪戯者いたずらものは、大岡十家が、知っていながらかくまいおいた同族五郎左衛門のせがれ亀次郎だと
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勘定奉行の松本伊豆守から、田沼へ送った進物駕籠を奪った、悪戯者いたずらものはこのわしじゃよ。わしと三人の相棒じゃよ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
解ったかい、石原の、おねげえだから、その縄を解いて俺に渡してくれ。あの悪戯者いたずらもの誘拐かどわかしの悪者は、俺がキッと探し出して、お前の手柄にさしてやる
ダリアの眼は悪戯者いたずらものらしく爛々らんらんと輝いた。太い腕が、その封筒の方へニューッと延びていった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
街頭を行き来し、歌を歌い、銭投げをし、どぶをあさり、少しは盗みをもした。しかしねこすずめのように快活に盗みをやり、悪戯者いたずらものと言われれば笑い、悪者と言われれば腹を立てた。
一座の者の荒胆あらぎもひしいで興がるために、火鉢の中へ弾丸をうずめておいたものがある。それがね出した時に、一座の狼狽ぶりを見て笑ってやろうという悪戯者いたずらものがあったのだと思いました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かねてからの文芸愛好の情に油をそそいで燃えあがらせた悪戯者いたずらものとして、あの一枚の幻燈の画片を云々するよりは、むしろ、日本の当時の青年たちの間に沸騰ふっとうしていた文芸熱を挙げたほうが
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかも多少の程度において、和気靄然あいぜんたる翻弄ほんろうを受けるようにこしらえられている。与次郎は愛すべき悪戯者いたずらものである。向後もこの愛すべき悪戯者のために、自分の運命を握られていそうに思う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新左衛門は、屋根裏の悪戯者いたずらものを睨んで、せっかくそれへ持ち出しておいた茶布巾ちゃふきんと茶碗をもういちど洗いに立った。かすかなちりが落ちたものとみえる。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お嬢様、きっとこの平次が、悪戯者いたずらものを見付けてお目にかけます。——が、一つだけお尋ね申します」
悪戯者いたずらものの牛丸もにわかに態度を改めたが
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
悲鳴しながら、こぶしの下で、小さい悪戯者いたずらものはまだ笑っていた。利家の打擲をくすぐったいように笑うのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すると、悪戯者いたずらものは誰でしょう」
運命は悪戯者いたずらものというが、こんな弱者の家庭へも同じに見舞った。皮肉にも浜子の死後まもなく、ちょっと家運が開けた。どういう金が入ったのか、家はかねノ橋側の吉田町二丁目へ引移った。
悪戯者いたずらものが解りましたか」
と、その悪戯者いたずらものを、家の横から叱っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この悪戯者いたずらものめが」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)