引据ひきす)” の例文
姉上はそでもてわれをかばひながら顔を赤うしてげ入りたまひつ。人目なきところにわれを引据ひきすゑつと見るまに取つてせて、打ちたまひぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と取押えるうしろから追いきたりし蟠龍軒、お町を取って引据ひきすえ、と見ると心の迷いか、小野庄左衞門の娘の顔だちと少しも違いませぬ、心のうち
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もすそを乱して一旦は倒れたが又たちまね起きて、脱兎だっとの如くに表へ逃げ出そうとするのを、𤢖は飛びかかって又引据ひきすえた。お葉もう見てはられぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
裸体にされた幾組の男女が、かしこの岩石の上、こなたの熱泉のほとりに引据ひきすえられている。牛頭馬頭ごずめずに似た獄卒ごくそつが、かれ等に苛責かしゃくしもとを加えている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
あわてた寳屋、疊の上を額でおよぐやうな恰好になるのを、ガラツ八は襟髮を取つてピタリと引据ひきすゑました。
此方こなたは生きたる心地もなくしげりし草むらの間にもぐり込み、様子如何いかにうかがいをり候処、一人のさむらい無理りに年頃の娘を引連れ参り、すきを見て逃出にげださむとするを草の上に引据ひきす
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぐさとつかんでたゝみ引据ひきすゑ打やらたゝくやら煙管きせるを取て續けさまうでに任せて打ける程に髮は散々おとろに亂れ面體めんていにも聊か疵を受けぬれば千太郎は最早百年目と思ひきり口惜くちをしや汝ぢ其金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
金蔵は、持って来た脇差わきざしを抜いて振りかぶり、大胆にも兵馬をめがけて切ってかかりましたけれど、これは問題にもなんにもなりません、すぐにやいばは打ち落されて、兵馬の小腕に膝の下へ引据ひきすえられ
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずるずる黒繻子くろじゅすの解くるを取って棄て、引据ひきすえ、お沢の両手をもてひしおおう乱れたる胸に、岸破がばと手を差入さしいれ
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
萬七の側に引据ひきすゑられたお靜は、飛付くこともならず涙一杯溜めて、平次の喜び勇む顏を見て居ります。
その中をどん/\滑る路を漸々よう/\と登りまして芝原へおやまを引据ひきすえて、三人で取巻く途端、秋の空の変りやすたちまちに雲は晴れ、を漏れる月影に三人の顔をにらみ詰め
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
果は押問答の末無法にも力づくにて金子をうばい取らむと致候間、つかみ合の喧嘩けんかに相なり候処、愚僧はとにかく十五歳までは武術の稽古けいこ一通ひととおりは致候者なれば、遂に得念を下に引据ひきすゑ申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雨戸を一枚繰ると、部屋の中に、主人の和助を縛って引据ひきすえているではありませんか。
飛上とびあがつては引据ひきすゑらるゝやうに、けたゝましくいてちて、また飛上とびあがる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雨戸を一枚繰ると、部屋の中に、主人の和助を縛つて引据ひきすゑてゐるではありませんか。
かれ引据ひきすゑられるやうにつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)