庚申塚こうしんづか)” の例文
「えらい目に逢ってるのですよ、だから雪が降りだすと、私はこれから庚申塚こうしんづかの方へ往かなくちゃならないが、もうよしたのですよ」
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もし駕籠かごかきの悪者に出逢ったら、庚申塚こうしんづかやぶかげに思うさま弄ばれた揚句、生命いのちあらばまた遠国えんごくへ売り飛ばされるにきまっている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と言って、四辺あたりを見廻したが、背後うしろにあったのがちょうど、庚申塚こうしんづかです。兵馬に気兼ねをしながら女は庚申塚の後ろへ身を隠しました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通天門と額を打った煉瓦れんがの石の門をくぐって、やはり紅葉の中を裏へ出ると、卯之吉うのきちという植木屋の庭を、庚申塚こうしんづかの手前へ抜けられますわ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて私はまた竹藪たけやぶに沿うた坂を下って、田圃たんぼそば庚申塚こうしんづかのある道や、子供の頃ささを持ってほたるを追い回した小川の縁へ出て来ましたが
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
仕方がないから歩いて帰ったが、後で若い者から聴くと、なんでも病人らしい者を私の駕籠に積んで、無理に巣鴨すがも庚申塚こうしんづかまで運んだということだ。
そこには庚申塚こうしんづかが立っていた。禿はげ頭の父親が猫背ねこぜになって歩いて行くのと、茶色の帽子に白縞しろじまはかまをつけた清三の姿とは、長い間野の道に見えていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
荘助の額蔵が処刑されようとした庚申塚こうしんづかの刑場も近く、信乃の母が滝の川の岩屋へ日参したという事蹟から考えても高等師範近所と判断するが当っているだろう。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
林の蔭に付いてさがる道があります。気味の悪い処にさいかち橋が架けてあります。これを渡ると直ぐ山田村、近道で其の小坂の処に庚申塚こうしんづかがあります。そこまで来ると車をおろして
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからその掘割に添いながら、北に向うと、庚申塚こうしんづか橋とか、小梅橋とか、七本松橋とか、そういうなつかしい名まえをもった木の橋がいくつも私たちの目のまえに現れては消える。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
内地ならば庚申塚こうしんづかか石地蔵でもあるはずの所に、真黒になった一丈もありそうな標示杭ひょうじぐいが斜めになって立っていた。そこまで来ると干魚ひざかなをやくにおいがかすかに彼れの鼻をうったと思った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
庚申塚こうしんづかの碑の裏から、枯れ草を踏みわけて来る人の大小のさやが濡れて見えた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘の姿は、次第に橋をへだたって、大きく三日月なりに、音羽の方から庚申塚こうしんづかへ通う三ツ角へ出たが、曲って孰方いずかたへも行かんとせず。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉というのは、あなたもよく御存じの、わたしがここへ来る前に、巣鴨の庚申塚こうしんづかで殺された、わたしにとっては大好きな親違いの姉であります。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
路にははんのまばらな並木やら、庚申塚こうしんづかやら、はたやら、百姓家やらが車の進むままに送り迎えた。馬車が一台、あとから来て、砂煙すなけむりを立ててして行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その春のある夜、太郎左衛門は浜松の城下へ往っての帰りに、遅く村の入口の庚申塚こうしんづかの傍まで来たところで、行手ゆくてに当惑しているらしい、二人づれの女の立ち止っているのを見た。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうだろう、おれが巣鴨すがもへ行った帰りみち、ちょうど庚申塚こうしんづかの先であの女を
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろ振返ふりけえり/\行く………見ろよ…………あゝ誰かでけえ馬ア引出しやアがって、馬の蔭で見えなくなった、馬を田のくろ押付おッつけろや…あれまア大え庚申塚こうしんづかが建ったな、れア昔からある石だが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
庚申塚こうしんづかから少し手前、黒木長者のいかめしい土塀の外に、五六本の雑木が繁って、その中に、一基の地蔵尊、鼻も耳も欠けながら、慈眼を垂れた、まことに目出たき相好の仏様がまつられておりました。
松の根はいわの如く、狭い土地一面に張り出していて、その上には小さい木箱のような庚申塚こうしんづか、すこし離れて、冬枯れした藤棚ふじだなの下には、帝釈天たいしゃくてんを彫り出した石碑が二ツ三ツ捨てたように置いてある。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「江戸に近い巣鴨の庚申塚こうしんづかというところで、わたしの姉さんが、あなたに刺し殺されたということを夢に見ました」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その四辻には庚申塚こうしんづかが立っていた。この間郁治といっしょに弥勒みろくに行く時にも例のごとくその女に会った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
巌穴いわあなの底も極めたければ、滝の裏ものぞきたし、何か前世の因縁で、めぐり逢う事もあろうか、と奥山の庚申塚こうしんづかに一人立って、二十六夜の月の出を待った事さえあるんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、庚申塚こうしんづか泰道たいどうが飛んで行きますよ」
「そこの庚申塚こうしんづかの裏は」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「誰が何の恨みでしたのか、わたくしはすこしも存じませんが、江戸に近い巣鴨の庚申塚こうしんづかというところで、むごたらしく殺されてしまったそうでございます」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
茶畑があって、右へ切れる畑道の辻に庚申塚こうしんづかがあります。そのとき兵馬は、もうよかろうと思って、後ろから
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巣鴨、庚申塚こうしんづかのあたりの一夜の出来事が縁となって、机竜之助は夢のように導かれて甲州街道を辿たどりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いよいよ出立の時は、近所隣りや、お出入りのもの、子分連中が盛んに集まって、板橋まで見送ろうというのをいて辞退して、巣鴨の庚申塚こうしんづかまでということにしてもらいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずっと左へ切れる道がございましょうと存じます、それを尋ねておいであそばすがよろしうございます、多分、巣鴨の庚申塚こうしんづかというところあたりへ出る道があるだろうと存じますが
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巣鴨の庚申塚こうしんづかあたりへ来たと覚しい頃、急に人声がさわがしくなりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
切ってここの庚申塚こうしんづかへ納めなくてはならないことになっている。それを
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)