平穏へいおん)” の例文
旧字:平穩
こうして二時間ばかりを、本艇は何事もなく至極しごく平穏へいおんに送ったのであった。その間に、火星の表面は、すこしばかり西へ位相を変えた。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
欧羅巴ヨーロッパの通商をさまたげ、かつその平穏へいおんみだせし希臘ギリシア国の戦争をたいらげんがため、耶蘇教の諸大国、魯西亜ロシア国とともにこれを和解、鎮定ちんていせり。
このときうみうえは、いっそうあかるくなったようながしました。かれらの部落ぶらくは、またむかし平穏へいおんかえりました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
無かった縁にまよいはかぬつもりで、今日に満足して平穏へいおんに日を送っている。ただ往時むかし感情おもいのこした余影かげが太郎坊のたたえる酒の上に時々浮ぶというばかりだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
寺田屋には無事ぶじ平穏へいおんな日々が流れて行ったが、やがて四、五年すると、西国方面の浪人たちがひそかにこの船宿に泊ってひそびそと、時にはあたりはばからぬ大声を出して
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
辞表を書いて懐中かいちゅうに持ちながら諸般の事情によりその提出も出来ず待機たいきしているという不思議な運命うんめいの下にくらすこと一年で、昭和十一年の新春に、やっと辞表を平穏へいおんに出すことが出来た。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
といわれるくらいのことで六、七年間はうすあたたかい平穏へいおんな月日を経過けいかした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
重吉の案外に平穏へいおん無事な海の上の年月に比べて家の中には人生の波がれ騒いだ。陸の船頭役であるいねは、実枝みえがまだ二た誕生も来ぬ時にきゅうに倒れて、からだ半分が利かなくなった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
だから国家の平穏へいおんな時には、徳義心の高い個人主義にやはり重きをおく方が、私にはどうしても当然のように思われます。その辺は時間がないから今日はそれより以上申上げる訳に参りません。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああは云っても、家に落ち着いて暮らしに不自由のない若旦那わかだんなになってしまえば、自然野心もおとろえるものだから、津村もいつとなく境遇きょうぐうれ、平穏へいおんな町人生活に甘んずるようになったのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春木、牛丸の二少年の身辺しんぺんには、依然として平穏へいおんな日がつづいた。いずれ落着いたら、便りをよこすといっていた戸倉老人からもどうしたものか音沙汰おとさたがなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人々ひとびともあらしのことをわすれてしまい、うみうえ平穏へいおんにさながらかがみのようにかがやいていました。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、この退屈たいくつ平穏へいおん暗黒あんこくの空の旅は、地球の方ではあまり歓迎しなかった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『ああ、ゆきけたのだな、こんながけのうえで、いわにしがみついて、一にちとして平穏へいおんらしたことのないを、かわいそうに……。』と、少年しょうねんはいって、わざわざいえから、もちをってきて
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)