寄来よこ)” の例文
「信じないのね、いいわ。必要ならその女から来た手紙を見せてあげます、その女が兄さんの子供を生んだとき寄来よこした手紙を——」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこでそれ、お前達が人にめられるために私等わっちらに税金をお出しなされる。今日はそれを取上げに来やした。こころありだけ寄来よこさっせえ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、首を渡せ。大事な証文も取上げて了つたな、大事な靴も取つたな。靴盗坊くつどろぼう大騙おほかたり! 首を寄来よこせ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もっとも私のところへ取りに寄来よこした薬と云うのが凡て主人の使うもので、それが皆一種の解熱剤であるのを見ても、大分だいぶん無理な夜更しでもするらしいのは判っていたのだが
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
家を持つて間のない道助夫妻が何かしら退屈を感じ出して、小犬でも飼つて見たらなどと考へてる頃だつた、遠野がお祝ひにと云つてくちばしの紅い小鳥を使ひの者に持たせて寄来よこしてくれた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
木霊こだまのように、返事を寄来よこすのだった、彼もたしかに寂しいには違いない、彼も決して悪い男ではない、ただ、世の人との交際の術を全然持ち合せていないのだ——と、私は思っていた。
蝕眠譜 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
虫の啼く、粗壁あらかべの出た、今一軒の家には老夫婦が住んでいた。じじい老耄ろうもうして、ばばあは頭が真白であった。一人の息子が、町の時計屋に奉公していて、毎月、少しばかりの金を送って寄来よこした。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
「今日まで内証ないしょうにしていたんですが、実は四五日まえから脅迫状を寄来よこす奴がいるんです。初めは誰かの悪戯いたずらだと思ってたんですが」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そこでの、黒瀬の婆様ばあさんを葬ってやろうと思って用意をしたお棺はね、ちと道具に使用処つかひどころがある、後でここへ持たしてお寄来よこし。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又お前もどの顔で逢ふつもりか。先達而せんだつてからしきりに手紙を寄来よこすが、あれは一通でも開封したのは無い、来ればすぐに焼棄てて了ふのだから、以来は断じて寄来さんやうに。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何かあったのだ、川本が無電をかけて寄来よこした時と同じように、自分たちが流血船へ行っている後で、何か怪事が持上もちあがったのだ。怪事……そうだ、海坊主の——。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうそう、芳ちゃん、まだそのさきにね、旦那がさ、東京へ行って三月めから、毎月々々一枚ずつ、月の朔日ついたちにはきっと写真を写してね、欠かさず私に送って寄来よこすんだよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前が得心せんものなら、此地ここへ来るに就いて僕に一言いちごんも言はんと云ふ法は無からう。家を出るのが突然で、その暇が無かつたなら、後から手紙を寄来よこすが可いぢやないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そりゃ、真実ほんとうに僕を可愛がってくれたッちゃあないよ。今着ている衣服きものなんか、台なしになってるけれど、姉様がわざと縫って寄来よこしたもんだから、大事にして着ているんだ。」
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると金港堂きんかうどうけんの話が有つて、硯友社けんいうしやとの関係をちたいやうな口吻くちぶりそれよろしいけれど、文庫ぶんこ連載れんさいしてある小説の続稿ぞくかうだけは送つてもらひたいとたのんだ、承諾しようだくした、しかるに一向いつかう寄来よこさん
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「母の話では、新しいシャツやズボン下を持たせて寄来よこしたと云うんです。片町の村上という友達の家へ問合といあわせたら、六時頃に出たそうですから、どんなに遅くとも来ない筈はないと思います」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「老子爵と貴女あなたを殺してしまうという脅迫状を寄来よこした者があるんです」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其内そのうち金港堂きんこうどう云々しか/″\の計画が有るとふ事が耳につた、其前そのぜんから達筆たつぴつ山田やまだが思ふやうに原稿げんかう寄来よこさんとあやしむべき事実が有つたので、捨置すておがたしと石橋いしばしわたしとで山田やまだあひきました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)