外貌がいぼう)” の例文
また南洲なんしゅう自身についていえば、ようによりては外貌がいぼうおそろしい人のようにも思われ、あるいは子供も馴染なじむような柔和にゅうわな点もあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その外貌がいぼうの醜悪も、その本能の不具も、彼をわずらわさず彼をいら立たせなかった。彼はそれに感動させられ、ほとんど心をやわらげられた。
実際はその享楽家的な外貌がいぼうの下に戦々兢々せんせんきょうきょうとして薄氷はくひょうむような思いの潜んでいることを、俺は確かに見抜いたのだ。
最後に彼の外貌がいぼうもそのペダンチックな性格を暗示している。大きな尖り鼻、長くて薄い、真っ黒な韃靼人風の髯とある。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
バッハの音楽は、一応むずかしい外貌がいぼうを持っているようではあるが、その底にはめども尽きぬ人間愛が流れている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
古来人相と称して、人の外貌がいぼうにつきて、その人の運不運、吉凶を占定する法がある。これを細別すれば、面相術、骨相術、手相術、爪相術そうそうじゅつ等となる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
むろんおとうさんとおかあさんが住みつく田舎いなかへ着く迄にはいくばくかの月日も、その間に完全な男女に二人の性を還元させる外貌がいぼう姿態に二人が自分達自身を
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
単にその外貌がいぼうだけについていっても、例えば私のように、血気な青年だったものがいつかすでに半白の初老に変じたものもあろうし、中年の壮者が白髪の老者に化し
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
何時の間にか彼女の生命いのちも、あだかも香気を放つ果実くだもののように熟して来ていた。彼はその見違えるほど生々とした表情を彼女の外貌がいぼうのどの部分にもて取ることが出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
罌粟の他は山一つ見えなかった原野の中に、百数十万の近代都市がただ一つ結晶している外貌がいぼうの印象は、ホテルの自分の部屋へ着いてからも、まだ梶の頭から離れなかった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼らは少しも変らないように見えたが、しかし仔細に見ると、やはり冬から春、春から夏にかけて、わずかながら目に見えるほどの変化はその外貌がいぼうに現われているのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
この都会は今なお復興の途上にあったが、しかし新装の町並みはあらかた外貌がいぼうを整えて来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
直記と誠之進とは外貌がいぼうのよく似ていた如く、気質きだても本当の兄弟であった。両方に差支さしつかえのあるときは特別、都合さえ付けば、同じ所に食っ付き合って、同じ事をして暮していた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妙子と云うものの外貌がいぼう、———その人柄や、表情や、体のこなしや、言葉づかいや、———そう云うものが、この春あたりからだんだん変って来つつあるように思えることも
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私の外貌がいぼうは悠々と読書に専念していたが、私の心は悪魔の国に住んでおり、そして、悪魔の読書というものは、聖人の読書のように冷徹なものだと私は沁々しみじみ思い耽っていたのである。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これほど体裁のいい外貌がいぼうと、内容の空虚な実質とを併合した心の状態が外にあろうか。この近道らしい迷路を避けなければならないと知ったのは、長い彷徨ほうこうを続けた後のことだった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私はいつもながらの自分の任意な空想に欺されたのだと思って可笑おかしくもあった。しかしそれにしてもこのボーイの外貌がいぼうについて、一つ著しい変化の起っているのを見逃す事は出来なかった。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのげんいわく、そもそもわが国王は東方の天主教を保護するの説を唱えて信教の念を飾るといえども、その実は、わずかに外貌がいぼうの虚飾にすぎざるのみ。ゆえにこの事態に徹底せざる徒をして迷わしむ。
西遊記さいゆうき』その他の書物に九州の山童として記述してあるのは、他の府県でいう山男のことであって、その挙動なり外貌がいぼうなりは、とうてい川童の冬の間ばかり化してなる者とは思われぬのであるが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
外貌がいぼうじゃない、それで絵でも御承知の通り今もっともやかましくいわれておりますようなものには、一般に御承知の法隆寺の壁画でありますとか、あるいは推古仏とかいうようなものでありますとか
斎院は源氏の価値をよく知っておいでになって愛をお感じにならないのではないが、好意を見せても源氏の外貌がいぼうだけを愛している一般の女と同じに思われることはいやであると思っておいでになった。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは一応犯罪の外貌がいぼうをもつのみで、二つとも真の犯罪ではない。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人はすぐ、人の外貌がいぼうで、人をきめてしまいやすい。忠盛の容貌ようぼうと、忠盛が地方出の武者だということだけで、院中の公卿たちは、かれの知性を見くびっているが、上皇は、むしろ反対に見ておられた。
河村の華著きゃしゃな肉体と美しい外貌がいぼうさえむごたらしく閉ざされた。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
恒久不変こうきゅうふへんの感激で、私の生活をなごめてくれ、不断の慰藉いしゃを投げかけてくれるのは、一応小むずかしき外貌がいぼうを持つ、バッハの理知的な音楽だったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
芝居好きが芝居の形情を想出するときは、自然にその手足をうごかし、その身体を動かして外貌がいぼうに示すに至る。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
外貌がいぼうと内実との相反することはまれでない。この柔と剛とは善い意味にも悪い意味にも解される。いま述べた女のごとくというのも、また同じく善悪両様に解される。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と、こう書いたらおおよそ読者も津村と云う人間の外貌がいぼうを会得されるであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私の父は頑固で物々しく気むずかしく、そのへんの外貌がいぼうは似たところもあったが、私の父の方がもっと子供っぽいところがあった。然し私の父の本当の心は私と通じる幼さは微塵みじんもなかった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それはその外貌がいぼうの美しさが私をあざむきやすいからである。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
往事の書生が、なるべく外貌がいぼうを粗暴にし、衣はなるべく短くし、かみはなるべくくしけずらず、足はなるべく足袋たび穿かなかったような、粗暴の風采ふうさいはなさぬ人が多かろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
例えば、明らかにある人の年齢を知らざるも、その人の外貌がいぼう、挙動について多少その年齢を察知することを得るをもって、その察知せしところのもの、自然に筋動を生ずるに至るなり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それとも眼病をわずらってでもいるのか、眼瞼まぶたれて垂れ下っているために始終眼をつぶっているような顔つきをした、従って表情の鈍い、けかかった老婆ろうばのような外貌がいぼうではあるけれども
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)