しょく)” の例文
旧字:
何人なんぴとが進んでそのしょくに応ずるかはの知る限りでない。余はただ文壇のために一言して諸君子の一考いっこうわずらわしたいと思うだけである。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先帝、崩ぜられんとして、不肖なる臣に、陛下を託され、また国事をしょくし給う。何で、昨今の大事を知らずにいてよいものですか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹のようにしなやかで、かつ、剛健な意志をもたねばならぬという意見で、それで剛子と名づけた。剛子は父の望みをしょくされているのである。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかりといえども女子に適切なる職業に至りてはその数極めて少なし、やや望みをしょくすべきものは絹手巾きぬはんけち刺繍ししゅうこれなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
日本橋の鰹節問屋の次男坊で、学校の成績もよく、将来に望みをしょくされている新進と分った。絵かき貧乏でなくて、分家をすれば相当分けて貰える。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「自彊不息」と主人のしょくによって清人か鮮人かの書いた額が掛って居た。やがて案内されて、硝子戸になって居る縁側えんがわ伝いに奥まった一室に入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ツァ・ルンバはインドの方へ交易に行く時分に、私の勢力のますます進んで来るのを見て大いに望みをしょくして居った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
最初文芸委員会がファウストを訳することを私にしょくした時、向軍治さんが一面委員会の鑑職の足らぬを気の毒がり、一面私の謙抑しないのを戒めて下すった。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
電気の光が車内に差渡って、芳子の白い顔がまるで浮彫のように見えた。父親は窓際に来て、幾度も厚意のほどを謝し、後に残ることに就いて、万事をしょくした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
東は大和口の東軍と河内口の東軍とが河内のすなに相会する所を迎え撃ち、南は熊野の土冦と相結んで、和歌山の浅野を挾撃し、又別に古田織部正の家老木村宗喜むねよししょく
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
福沢先生これに答ふるめにとて、生しょくして文案を草せしむ。即ち先生平素の言行にもとづき、其大要を述べて、先生の閲覧を乞ひ、これを修身要領となづけ、学生に示すこと左の如し。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
……で、この壺はそれ以来、甲府勤番御支配頭の、保管にしょくしていたものだそうな。そうして甲府城の土蔵の奥に大切に仕舞しまって置かれたんだそうな。……そいつを「とっつあん」が盗み出したのよ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東京小石川こいしかわの某町に、葛西かさいと云って、もと幕臣であった富裕な家があって、当主の芳郎よしろうと云うのは仏蘭西フランスがえりの少壮民権家として、先輩から望みをしょくされていた。微曇うすぐもりのした風の無い日であった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたくしは一体多門よりも数馬に望みをしょくして居りました。多門の芸はこせついて居りまする。いかに卑怯ひきょうなことをしても、ただ勝ちさえ致せばいと、勝負ばかり心がける邪道じゃどうの芸でございまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとり五男の但馬守宗矩むねのりに、伝血の望みはしょくされていたが、それも江戸常住となって、稀〻たまたまの便りが、せめての楽しみであった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と卓造君は態〻わざわざの解釈を異にしていたものゝ、再び水力電気にのぞみしょくし始めた。百間橋から半里ばかり上流に大滝というところがある。川の水全体が数間の傾斜面を落下する。ナカ/\の壮観だ。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし幸いに、費褘ひいがなお滞在している。孔明は、われ亡き後は彼にしょくするもの多きを思った。一日、その費褘を招いてねんごろにたのんだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と僕は望みをしょくして、会社の帰りを宮下君に伴った。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それはよい手がかりだな。もし呉から周瑜をはずせば、呉軍は骨抜きになる。大いに足下の労にしょくすが、行くとすれば、何を携えてゆくか」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「伊籍ならば」と、孔明もうなずいたし、満座もみな彼にしょくした。即ち玄徳の書簡をのせて、伊籍は遠く長江を下った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにしろ頼む」と、宋江はくれぐれ朱貴にしょくした。「よもやわしとの約束は破るまいが、なにせい、あのやっこさん、なにを仕出来しでかすかわからんからな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で彼は、そのいずれにも後事を託さず、かえって、平凡だが穏健な蒋琬しょうえん費褘ひいとにしょくすところ多かったのである。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで当然、次代の執権職は、誰かとなるが、御一族中では、赤橋守時殿などが、最も望みをしょくせられておる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またはここに再起の望みなき深傷ふかでの子息や兄弟をのこしておる者、いずれにもあれ、正成の眼で、死ぬにおよばず、なお長らえ、あとをしょくしたい者ばかりなのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴公にしょくするほか他に人はない。むかし、桃園とうえんを、ここに思い、この難役に当ってくれい
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、このままでは帰らん。それがしも、この友情と、味方のしょくをうけて来たものだ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、しいて望みをしょくすれば、将来にも、また、どこかの書塵の間から、ひょっこり、この手紙のような物が、現われたりしない限りもないなどと思ってみたりするが……さあどうであろうか。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すでに、その第一陣は、徳川殿にしょくしてある。そちは、第四番につけ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵守は、そうした反省と、留守中をしょくせられた領政りょうせいとに顧みて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
を、まず一族の武蔵守にそれとなくしょくしているものと思われる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、将来の大計を、義経にしょくしていた。いや、彼にいわせれば
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼に未来をしょくす人が日に増しつつある所以ゆえんであるともく。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)