喪心さうしん)” の例文
瞬間しゆんかん處々ところ/″\くぼんでやつれた屋根やねまつたつゝんでしまつた。卯平うへい數分時すうふんじまへ豫期よきしなかつた變事へんじ意識いしきしたときほとんど喪心さうしんしてにはたふれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お志保もた不思議さうに丑松の顔を眺めて、丁度喪心さうしんした人のやうな男の様子を注意して見るらしい。二人は眼と眼を見交したばかりで、黙つて会釈ゑしやくして別れたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
金花はまるで喪心さうしんしたやうに、翡翠の耳環の下がつた頭をぐつたりと後へ仰向あふむけた儘、しかし蒼白あをじろい頬の底には、あざやかな血の色をほのめかせて、鼻の先に迫つた彼の顔へ、恍惚くわうこつとしたうす眼を注いでゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つばさのおとを聴かんとして 水鏡みづかがみする 喪心さうしんの あゆみゆく薔薇
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
喪心さうしんのたのしさを聴け。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くぬぎ大分だいぶあるやうだな」といひてゝつた。勘次かんじあめたれつゝ喪心さうしんしたやうににはつてる。戸口とぐちかげかくれていてたおつぎは巡査じゆんさつたのちやうや姿すがたあらはした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
勘次かんじうへむしろよこたへて、喪心さうしんしたやうに惘然ばうぜんとしてつた。かれ卯平うへい糜爛びらんした火傷やけどた。かれなにおもつたかいそがしくゆき蹴立けたてゝ、桑畑くはばたけあひだぎてみなみいへはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)