あじは)” の例文
彼等かれらあじはふのではなくてえうするに咽喉のどあなうづめるのである。冷水れいすゐそゝいでのぼろ/\な麥飯むぎめしとき彼等かれら一人ひとりでも咀嚼そしやくするものはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたしは父の戦死から生じたすべての苦痛をあじはつて来た。絶望が絶望に続き、苦痛が苦痛に続いた。その絶望と苦痛のうちで、わたしは人の夫となり、人の親となつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
りにも名人上手とうたはれた者は年をとつてつまらぬ棋譜きふのこすべきでない——と自重を切ぼうしたといふ。これは或る意味いみ悲壯ひそうな、而もはなはあじはふべきことばだ。
「文化生活」と云ふものも、あじはつて置いて損はない。そんな一種皮肉な気持もあつて、例の微苦笑を湛へながら、兎も角も其の当時在つた江木えぎの楼上へ行つて見た。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
巴里の夜のグランブルバアルの人波を分けて行くあじはひを是れから得ようとして居ると云ふのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さて残りたる米を粥に作りて何のあじはひも無く腹を満たし、梅干、塩、味噌なぞを嘗めながら、日もすがら為す事も無く方丈にて籠もり、前の和尚の使ひ残したる罫紙を綴ぢ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はこの悲しさをあじはふ度に、昔見た天国のほがらかな光と、今見てゐる地獄のくら暗とが、私の小さな胸の中で一つになつてゐるやうな気がします。どうかさう云ふ私を憐んで下さい。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それにこのあひだに、多人數たにんず下役したやく謁見えつけんをする。受持々々うけもち/\事務じむ形式的けいしきてき報告はうこくする。そのあわただしいなかに、地方長官ちはうちやうくわん威勢ゐせいおほきいことをあじはつて、意氣揚々いきやう/\としてゐるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
目をうちつぶり、ひをあじはふ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
煙草たばこあじはふ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)