去就きょしゅう)” の例文
……で、宮将軍へ付くか足利へ寄るか、とまたもや武士みな去就きょしゅうの迷いを右往左往にしておりますので、それをわらったのかもしれませぬ
理詰りづめで判断はできるが、自分はだいたいの見地けんちよりこの問題を見る力なく、取捨しゅしゃ去就きょしゅうに迷うゆえ、いわゆる先輩の判断をうというならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あのはげしかった会合のことがらをはっきりとつかめもせずに、自分の去就きょしゅうについてどうしたら下手へたをやらずにすむかを考えていたようでした。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
去就きょしゅう不明の十万以上の味方を足手まといにしながら、家康に指を噛ませたという超人間力の出所を、もう一ぺん我々は見直さなければならない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が至る所に容れられぬのは、学問の本体に根拠地を構えての上の去就きょしゅうであるから、彼自身は内にかえりみてやましいところもなければ、意気地がないとも思いつかぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四十にして家をさず去就きょしゅうつねならぬ泰軒の乞食ぶりには忠相もあきれて、ただその端倪たんげいすべからざる動静を、よそながら微笑をもって見守るよりほかはなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
就中なかんずく、周の封建の時代と我が徳川政府封建の時代と、ひとしく封建なれども、その士人しじん出処しゅっしょを見るに、支那にては道行われざれば去るとてその去就きょしゅうはなはだ容易なり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや、その喜ぶと云う気さえ出なかったほど、先生の去就きょしゅうには冷淡だったと云えるかも知れない。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ジャックは、魔法の外套を着た通り魔のように、暗黒から暗黒へと露地横町ろじよこちょうを縫ってその跳躍をほしいままにした。彼の去就きょしゅうの前には、さすがのロンドン警視庁も全然無力の観さえあった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「とまれ、大物小物といわず、諸方の武士の去就きょしゅうはいまいつにここの戦況如何にかかっている。名和の兄弟、ひとしお合戦にはげんでくれよ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸におったり、おらなんだり、去就きょしゅう風のごとくじゃから、いつ来ていいかわからん」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
院長に聞いて見ると、嘔気はきけが来なければ心配するほどの事もあるまいが、それにしてももう少しは食慾が出るはずだと云って、不思議そうに考え込んでいた。自分は去就きょしゅうに迷った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい先頃までの彼は、頼朝の召をうけても、去就きょしゅうに迷っていたのである。が、今暁こんぎょうここへ来る時には、もう肚は極まっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時潮の人間は、大義名分だけでも去就きょしゅうしていない。利害だけで向背こうはいするとも限ッていない。恩や恨みによってもままうごく。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去就きょしゅうに迷って殲滅の憂き目に会う者や、いち早く、武器を捨て、投降する者や、右往左往一瞬はさながら地獄の底だった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵にくだるも、長政にじゅんじるも、去就きょしゅうは各〻が選むところで、いたずらにののしるべきでない。——この戦い、信長にも名分あり、長政にも名分がある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「およそは、征伐が目的ではない。たださまたげを打ちくじぶんにて、たたかいの目標はるぞ。——あとはこう師直もろなおよりの執事の令に従って去就きょしゅういたせ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち勝入父子が、去就きょしゅう一決と同時に、木曾川第一の要地を占領して、秀吉へ加担かたん引出物ひきでものとした快報であった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このさい去就きょしゅうを過るな。おれはここに帰っているぞ。一たんはぜひなく直義についた者といえ、前非を知って戻って来るなら、おれはその非を追求しない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうはかり難い明暗と、去就きょしゅうに迷っている中国へ、秀吉の兵馬は天正五年十月二十三日以降、西へ、西へ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その去就きょしゅうに、家中を挙げて紛論のかわされた席で、父の藤孝がこういって、く所を直指したことがある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去就きょしゅうにまよい、四囲の重圧にあえいでいた盟国の土民は、かがりき、歓呼かんこして、秀吉の兵馬をむかえた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、この日をもって、多少城内にもあった去就きょしゅう静観組の空気も一掃されてしまい、黒田ノ城だけは、信雄、家康へ二心なきものと、明朗な態度を示すに至った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅雨つゆはとうに明けているはずだが、いっこう空気は乾燥しない。そして空にはのべつという程、この頃の天下を象徴しているような去就きょしゅうの定まらない雲が往来していた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順慶坊主め、口の先では、程よく申しおって、いっこう去就きょしゅうを示さなんだが、帰途、探り得たところでは、彼からも秀吉からも、頻りと使者の取りわしがあったようだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはすぐ在京武者に弱味をおもわせ、いたずらに去就きょしゅうを迷わせる悪結果をよぶ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、この先の政治的な変動やら一身の去就きょしゅうに、暗澹あんたんたる動揺がかくしきれなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、下手へたをすれば、山を降りても、半兵衛重治の去就きょしゅうは、いずれへつくか不明と見るのが穏当である。織田家でなくて、かえって斎藤家の陣門へ追い込んでしまうかもしれないのだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
過日はまだ、われらの去就きょしゅうも定まらぬうちゆえ、後の推移次第で、利用の道もある人間とおもい、牢へ投げこんでおけいと命じおいたのだが……両三日の忙しさに、つい失念しておった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去就きょしゅうに迷うのもむりはない。野望をあやまって身を亡ぼす者が簇出ぞくしゅつする理由もある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましてこの大蔵の去就きょしゅうなどに目もくれてはいない。また千早には、大将から兵のはしまで、出世を考えているようなのは、ただのひとりもいねえンだよ。そんな娑婆しゃばで居たたまれる城じゃあない。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操も、この二大方向の去就きょしゅうに、迷っていたところだった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身の去就きょしゅうさえ、こうなってからの、うろたえだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)