半間はんま)” の例文
くしゃみ出損でそこなった顔をしたが、半間はんまに手を留めて、はらわたのごとく手拭てぬぐいを手繰り出して、蝦蟇口がまぐちの紐にからむので、よじってうつむけに額をいた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し人間は半間はんまですが、案外鼻の利く八五郎に、少しでも事件を扱わせて、行く行く立派な御用聞に仕立ててやろうという平次の腹でしょう。
人間様の方は賄賂が効くさうだが、俺達の方ぢやアとても駄目だよ。握飯で騙されるやうな半間はんまな犬が此節このせつがら有るものか。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
そのていを眺めると、ふだんはドジだの半間はんまだのと馬春堂を道具に使っている道中師の伊兵衛も、少し哀れを感じたように
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母「此の野郎は遣り損って足へ小柄を刺されて、痛くって逃げる事が出来ねえ、本当に半間はんまな野郎で仕様がねえよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼らはもとより不正な人間ではない。正道を踏んで働けるだけ働いたのだ。しかし耶蘇教ヤソきょうの神様も存外半間はんまなもので、こういう時にちょっと人を助けてやる事を知らない。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「大飯を喰うから頭が半間はんまになるんだ。おさんどん見たいにほっペタばかり赤くしやがって……」
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
突然午後の四時頃半間はんまな時間を計って、わざと音せぬように格子戸を明けながら家の様子を窺うと下座敷には老婢も誰もいないので、慶三は見知らぬ他人の家へでも忍入しのびいるように
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「へえ、甲州から参りました」そのいう事が半間はんまであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「勝手にしろ、——ふんどしを嫌いな男碁は強し——てな、川柳点せんりゅうてんにある通り、碁の強いのは半間はんまな野郎に限ったものさ」
またけだされたら虻蜂あぶはちとらずじゃ、ええ、あの半間はんま燕作えんさくのやつ、いったいどこへいってしまったのだろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とこう思っての、そっおぶって来て届かねえ介抱をしてみたが、いや半間はんまな手が届いたのもおめえの運よ、こりゃ天道様てんとうさまのおなさけというもんじゃ、無駄にしては相済まぬ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ鉄の才槌さいづちを双方の足へしばり附けて歩いてるんだから、敏活の行動は出来ないはずだ。あの白い眼にじりじりやられたのも、満更まんざら持前の半間はんまからばかり来たとも云えまい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「間抜けめえ。船長おやじがソンナ半間はんまな処へ船をるもんけえ」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
半間はんまな面だなア、面が半間だから云う事まで半間だア
ガラッ八の半間はんまな調子と、それを精いっぱい尤もらしくする言葉に、相沢半之丞も少しうんざりしております。
着物を引っかけて、外へ出ると、坊主頭へ濡れ手拭をたたんでのせた。昼遊びの太鼓が、トコトン、トコトンと半間はんまな音をどこかの二階でさせている。露八は、舌うちをして
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを無理矢理に体裁ていさいつくろって半間はんまに調子を合せようとするとせっかくの慰藉いしゃ的好意が水泡と変化するのみならず、時には思いも寄らぬ結果を呈出して熱湯とまで沸騰ふっとうする事がある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辻町糸七の外套がいとうの袖から半間はんまつらを出した昼間の提灯は、松風にさっと誘われて、いま二葉三葉散りかかる、折からの緋葉もみじともれず、ぽかぽかと暖い磴の小草こぐさの日だまりに、あだ白けて、のびれば欠伸あくび
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せてヒヨロヒヨロで、青白くて面長で、まことに見る影もない男ですが、人間はそんなに半間はんまではないらしく、物言ひなどはなか/\ハキハキしてをります。
そうよ。俺もずいぶん半間はんまだったが、弦之丞様も弦之丞様だ。松平様のお屋敷に呼ばれて、常木様と三人で、コッソリ相談をきめるとすぐに、代々木荘から夜にまぎれて、甲州街道を
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云つて、此後悔を予期よきして、無理に応急の返事を、左も自然らしく得意にき散らす程に軽薄ではなかつた。だからたゞだまつてゐる。さうしてだまつてゐる事が如何にも半間はんまであると自覚してゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ありゃ馬鹿ですよ、私をどうかするつもりでいるんでしょう、——あんな半間はんまかばい立てなんかして」
「あれは呂宋兵衛が、水気魚陰すいきぎょいんの法をかけて、てめえたちみてえな半間はんまなやつの目をくらましたのだ。しかし、魚はちょうど船へねこんだほんものだそうだから、安心して料理するがいい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして黙っていることがいかにも半間はんまであると自覚している。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八五郎がいふ通り、加納屋の甥の房吉の樣子は、かなり半間はんまで不調和のものですが、それが生眞面目な性格の表象のやうな氣がして、お品の心持では、笑ふ氣などにはなれなかつたのです。
するような、半間はんまな長脇差は江戸にゃあいねえぞっ
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半間はんまな声がひびいてくる。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とられる半間はんまに 利口りこう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)