午餐ごさん)” の例文
一行はここの二階へ案内されて、思い思いにテーブルに着くと、すぐに午餐ごさんの皿を運んで来た。空腹のせいか、料理はまずくない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本多政朝、政勝の二代に仕えた重臣で、石川主税ちからという人物がある。或る時、武蔵を午餐ごさんに招いて、他の客と共に歓談した。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午餐ごさんが済んで人々がサルンに集まる時などは団欒だんらんがたいてい三つくらいに分かれてできた。田川夫妻の周囲にはいちばん多数の人が集まった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
好く姉さんに話したでしょう。今服の五味を取って貰っていた処です。今日はマルリンクの処へ午餐ごさんに呼ばれましたので。
矢張り、家へ戻ってきて、午餐ごさんをとるのであるが、母は、仏前へ飯を上げると、次に、この老人の所へもって行く。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
元通り取りくずしてちょうど午後二時半頃一同は引き退さがりました。宮中にて一同午餐ごさん頂戴ちょうだいしまして、目出たく学校へ帰ったのが午後四時頃でありました。
自分はたゞ是等のひとと同じ食卓しよくたくで、うまさうに午餐ごさんあぢはつて見せれば、社交上の義務は其所そこに終るものと考へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お馨さん死去の電報に接して二週間目の二月十六日、午餐ごさんの席に郵便が来た。彼此とり分けて居た妻は、「あらッ、お馨さんが」と情けない声を立てた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
午餐ごさんには諏訪湖のこひしじみとを馳走になつた。これは、『どうも何もなくていけないが、鯉と蜆でも食べて行つてくれたまへ』といふ赤彦君の心尽こころづくしであつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
戸外の労働にともなう午食ごしょく午餐ごさんでなく、したがってメシと呼ばるべきものでなかったことは明らかである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある日曜日に、クリストフは楽長から、小さな別荘で催される午餐ごさんへ招待を受けた。その別荘はトビアス・プァイフェルの所有で、町から一時間ばかりの距離にあった。
十一時半頃午餐ごさんを喰ふ。松魚かつおのさしみうまからず、半人前をくふ。牛肉のタタキの生肉少しくふ、これもうまからず。歯痛は常にも起らねど物を噛めば痛み出すなり。かゆ二杯。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
チチコフは、それが検事の家で午餐ごさんを共にした、あのノズドゥリョフだと気がついた。
白帝園はカンツリー・クラブの大食堂で私たち三人——私と素峰子そほうしと運転手と——が、この八月六日の極めて簡素な午餐ごさんしたためていた時に、たまたま給仕を通じて私に挨拶あいさつに見えた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それから午餐ごさんの支度をして、正午に午餐する。午後には裁縫し、四時に至って女中を連れて家を出る。散歩がてら買物をするのである。魚菜をも大抵この時買う。夕餉ゆうげは七時である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
喜平氏は親友湊屋仁三郎の使者つかいとして同業の水野が、白足袋などを穿いて改まって来たので、何事か知らんと思って座敷に上げた。ちょうど時分がよかったので午餐ごさんまで出して一本けた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あたかも午時ごじに近くして、戦わんとしてまず午餐ごさんの令はでたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
丁度午餐ごさん後だったので、ホテルの中はひっそりとしていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
次にったのは君が露西亜ロシアへ行く事がほぼ内定した時のことである。大阪の鳥居君が出て来て、長谷川君と余を呼んで午餐ごさんを共にした。所は神田川かんだがわである。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明治四十三年二月三日、粕谷草堂の一家が午餐ごさんの卓について居ると、一通の電報が来た。おけいさんの兄者人あにじゃひとからである。眼を通した主人は思わずああと叫んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日曜にまたお会いするのが、どんなにぼくは嬉しいでしょう! 宮廷音楽長の午餐ごさんに欠けられたについて、君にあまり不愉快なことが起こらないようにと、僕は希望しています。
りょうの囚人車は、すでに営庭の一隅に支度されてあったのだ。そして、せっかくの午餐ごさんの卓は、それから後、黄信とその幕僚とまた劉高りゅうこうとが、わが事成れりと、杯を上げあう談笑の座と変っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結果として、知事は早速その晩、自分の家の夜会に御来臨に預りたいと招待するし、他の役人連もそれぞれ、或る者は午餐ごさんに、或る者はボストン骨牌カルタに、また或る者はお茶に招くという始末であった。
丁度午餐ごさん後だったので、ホテルの中はひっそりとしていた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
食堂に下りて、窓の外にむらがる草花のにおいぎながら、橋本と二人静かに午餐ごさんの卓に着いたときは、機会があったら、ここへ来て一夏気楽に暮したいと思った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
午餐ごさんの案内に鶴子が来た。室を出て見ると、雪はぽつり/\まだ降って居るが、四辺あたりは雪ならぬ光を含んで明るく、母屋おもやまえの芝生は樫のしずくで已にまだらに消えて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
午餐ごさんが終わったところだった。殿下は客間にいた。暖炉を背にして、客たちと話しながら煙草たばこをふかしていた。客のうちにクリストフは、自分の姫を認めた。彼女も煙草をふかしていた。
李応のいいつけで、午餐ごさんが出る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち今日高木と佐川の娘を呼んで午餐ごさんを振舞うはずだから、代助にも列席しろと云う父の命令であった。兄の語る所によると、昨夕誠太郎の返事を聞いて、父は大いに機嫌を悪くした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ザロメがやって来て、午餐ごさん支度したくができたことを知らした。シュルツは彼女を黙らした。彼女は十分後にまたやって来、それからふたたび、十分後にまたやって来た。こんどは、ひどく怒っていた。
彼はクリストフを午餐ごさんに招待した。