「へツ、金と聞くと、金縛りでも有難くなりますよ。この節は不漁續きで、財布の中には穴のあいた金もねえといふ心細い有樣で」
この天気では、今日もどうやら不漁のような気がする……と思いながら、彼は明けゆく海原を前にして、ジャアジャアと用をたしはじめた。
「魚の不便なところだから不漁の時の用心に鱧を囲って置くのさ。此奴はこんなに骨っぽい丈けに寿命が強いそうだからね」
永年の漁師がいろいろの道具を用い、不漁で困っている時でも、七兵衛が行けば、きっと、びくをいっぱいにして帰る。