不可ふか)” の例文
彼がたとえ若死わかじにをすればとてこの遠大なる理想を有するにおいては、これをもってただちに長命ちょうめいと呼ぶ、なんの不可ふかれあらんやである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
爾後じご病牀寧日ねいじつ少く自ら筆を取らざる事数月いまだ前約を果さざるに、この事世に誤り伝へられ鉄幹子規不可ふか並称へいしょうの説を以て尊卑そんぴ軽重けいちょうると為すに至る。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
安政二年三月彼が月性げっしょうに与えたる書中に曰く、「天子に請うて幕府を撃つの事に至っては、殆んど不可ふかなり」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たとへば地名ちめいなかにも姓名せいめいそなふるらしいのがあるが、この場合ばあひ姓名せいめい轉倒てんたふするのは絶對ぜつたい不可ふかである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
司馬相如しばさうじよつま卓文君たくぶんくんは、まゆゑがきてみどりなることあたか遠山とほやまかすめるごとし、づけて遠山ゑんざんまゆふ。武帝ぶてい宮人きうじんまゆ調とゝのふるに青黛せいたいつてす、いづれもよそほふに不可ふかとせず。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
千里をゆく爪先つまさきの向けやうにて始まる者なれば物事は目の附けやうこそ大切なれ。善き所に目を附けて学ぶ人は早くそのを悟り悪しき所に目を附け学ぶ人は老に至るもその不可ふかを知らず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
其後そののちてうつ。てうきふなり。すくひせいふ。せい威王ゐわう孫臏そんびんしやうとせんとほつす。ひん辭謝じしやしていはく、(三一)刑餘けいよひと不可ふかなり』と。ここおいすなは田忌でんきもつしやうとなして、孫子そんしとなす。
もし名実相わずとせば、あるいは改めて『維新革命前史論』とするも不可ふかなからん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其處そこには、金澤かなざはひと多人數たにんずう移住いぢうしたるゆゑ、故郷こきやうにて、(加州金澤の新堅町の云々うんぬん)とふのが、次第しだいになまりて(かしや、かなざものしんたてまつる。)るべし、民謠みんえうちう愈々いよ/\不可ふかなること。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これはあながちいずれの政府の方針政策というわけではなかったけれども、かのモンテスキューも説いた通り、金力と名誉とは両立せしむるを不可ふかとするという説が一般に行われておったがためであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
想うてここに到れば、マヂニーは実に、松陰の意気と精神とに小楠の理想と霊心とを加えたりというも、不可ふかなきなり。吾人ごじんはただ松陰が何となくマヂニーに比して足らざる所あるを覚う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)