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一尾
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いつぴき
鰌一尾獲物は
無い。
無いのを
承知で、
此処に
四ツ
手を
組むと
言ふのは、
夜が
更けると
水に
沈めた
網の
中へ、
何とも
言へない、
美しい
女が
映る。
此時不意に、
波間から
跳つて、
艇中に
飛込んだ
一尾の
小魚、
日出雄少年は
小猫の
如く
身を
飜して、
捕つて
押へた。『に、
逃しては。』と
私も
周章てゝ、
其上に
轉びかゝつた。
間もなく
又一尾上げるとボズさん
引き
懸けた
処でがんしよ……
鮒一尾入つた
手応もねえで、
水はざんざと
引覆るだもの。
人間の
突入つた
重さはねえだ。
と
其の
坊主が
話したんです。……ぢや、
老爺さん——
老人が
貴下なら、
貴下が
坊主に
話された、と
云ふ、
城ヶ
沼の
鯉鮒は、
網で
掬へば
漁はあるが、
畚に
入れると
直ぐに
消えて、
一尾も
底に
留らぬ。