一堪ひとたま)” の例文
「見ておいでなされ白井誠三郎、一堪ひとたまりもなくやられますぜ」「全体あいつら生意気でござるよ。こっぴどい目に合わされるがよい」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恐ろしい腕前だ、あの棒が一当り当ったら、こちとらのなまくらはボロリと折れて、腕節うでっぷしでも首の骨でも一堪ひとたまりもあるもんじゃねえ
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
泥鉢は一堪ひとたまりもなく踏潰ふみつぶされた。あたかも甚平の魂のごとくにくじけて、真紅の雛芥子は処女の血のごとく、めらめらとさっと散る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一堪ひとたまりもなく尻餅を突かせると、その眼の高さの空間を、歪み曲った四ツの炭車トロッコが繋がり合ったまま、魔法の箱のようにフワリフワリと一週して
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一酷老爺いっこくおやじの七兵衛は、箒で手暴てあらく突き退けると、酔っているお葉は一堪ひとたまりもなく転んだ。だらしなく結んだ帯はけかかって、掃き寄せた落葉の上に黒く長く引いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今の一言は、柳生の家系いえすじの者にはない事だ。未練な愚痴ぐち。無知な嘆声。聞き苦しいたわ言である。そのような心根ゆえに、この老人の太刀にすら一堪ひとたまりもなく打ち据えられるのじゃ。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この挨拶には流石さすがに堅気の家の少年は一堪ひとたまりもなくひねられ、少し顔をあからめて
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
忠作が武者振むしゃぶりつくのを一堪ひとたまりもなく蹴倒けたおす、蹴られて忠作は悶絶もんぜつする、大の男二人は悠々ゆうゆうとしてその葛籠を背負って裏手から姿を消す。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屋根やねいても、いたつても、一雨ひとあめつよくかゝつて、水嵩みづかさすと、一堪ひとたまりもなく押流おしながすさうで、いつもうしたあからさまなていだとふ。——
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、とにかく大空を行くのだから、落つれば一堪ひとたまりもなく、粉微塵こなみじんに成ると覚悟して、風を切る黒き帆のやうな翼の下に成るがまゝに身をすくめた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
目をつぶって暫くこらえているところを、米友が下から顎を突き上げると、裸松が一堪ひとたまりもなくまた後ろへひっくり返って、暫くは起きも上ることができません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうして人間の面をかぶっておればこそ、の、わしが顔を暴露むきだいたら、さて、一堪ひとたまりものう、ひげが生えた玩弄物おもちゃろうが。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王侯貴人をも眼中に置かぬ米友が、お角さんのために、頭ごなしにやっつけられると、一堪ひとたまりもなく縮み上って舌を吐くということが、これ大きな不思議であります。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一堪ひとたまりもなく、饂飩屋はのめり伏した。渋団扇で、頭を叩くと、ちょん髷仮髪まげかつらが、がさがさと鳴る。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
力にした草の根が抜けると一堪ひとたまりもなく転々ころころと下へ落ちました。
別にまた武者修行でも来ればし、さもなけりゃ私だって、お前たちにゃ一人にもかなやしない。一堪ひとたまりもなく谷底へなげられるんだ、なあ、おい、そんなもんじゃないか。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これに一堪ひとたまりもなく気絶せり。猿の変化へんげならんとありしと覚ゆ。山男の類なりや。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
執筆しつぴつ都合上つがふじやう赤坂あかさか某旅館ぼうりよくわん滯在たいざいした、いへ一堪ひとたまりもなくつぶれた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
唯吉たゞきち一堪ひとたまりもなく眞俯まうつぶせに突俯つゝぷした。……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)