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りうじん
高信さんは、
南祖坊の
壇の
端に一
息して
向うむきに
煙草を
吸つた。
私は、
龍神に
謝しつゝも、
大白樺の
幹に
縋つて、
東が
恋しい、
東に
湖を
差覗いた。
すると
船頭共が、「
恁麽惡僧が
乘つて
居るから
龍神が
祟るのに
違ひない、
疾く
海の
中へ
投込んで、
此方人等は
助からう。」と
寄つて
集つて
文覺を
手籠にしようとする。
其時荒坊主岸破と
起上り、
舳に
突立ツて、はつたと
睨め
付け、「いかに
龍神不禮をすな、
此船には
文覺と
云ふ
法華の
行者が
乘つて
居るぞ!」と
大音に
叱り
付けたと
謂ふ。
それから
跣足になつて、
抱へられるやうにして
下つて、また、
老樹の
根、
大巌の
挟間を
左に五
段、
白樺の
巨木の
下に
南祖坊の
堂があつた。
右に三
段、
白樺の
巨木の
下に、一
龍神の
祠があつた。
何と
難有い
信仰ではないか。
強い
信仰を
持つて
居る
法師であつたから、
到底龍神如きがこの
俺を
沈めることは
出來ない、
波浪不能沒だ、と
信じて
疑はぬぢやから、
其處でそれ
自若として
居られる。