飯田町いいだまち)” の例文
昨七日さくなぬかイ便の葉書にて(飯田町いいだまち局消印)美人クリイムの語にフエアクリイムあるひはベルクリイムの傍訓有度ぼうくんありたくとのげんおくられし読者あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
明治三十四年五月、東京麹町区こうじまちく飯田町いいだまち皇典こうてん講究所では神職の講習会があった。宮地翁はその時「神仙記伝」と云うものを編輯へんしゅうしていた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道悪みちわるを七八丁飯田町いいだまち河岸かしのほうへ歩いて暗い狭い路地をはいると突き当たりにブリキぶきむねの低い家がある。もう雨戸が引きよせてある。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
脩はこの年五月二十九日に単身入京して、六月に飯田町いいだまち補習学会および神田猿楽町有終ゆうしゅう学校の英語教師となった。妻子は七月に至って入京した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんなに気の合った紅葉が、たった三、四日で、飯田町いいだまちの祖父母の宅へ越していってしまったのは、窓が北向きで、寒いばかりではなかった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
木曾街道きそかいどう奈良井ならいの駅は、中央線起点、飯田町いいだまちより一五八マイル二、海抜三二〇〇尺、と言い出すより、膝栗毛ひざくりげを思う方が手っ取り早く行旅の情を催させる。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃の私には知るよしもない何かの事情で、父は小石川の邸宅を売払って飯田町いいだまちに家を借り、それから丁度日清にっしん戦争の始まる頃には更に一番町いちばんちょうへ引移った。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あわい両三日を置きて、門をづることまれなる川島未亡人の尨大ぼうだいなるたいは、飯田町いいだまちなる加藤家の門を入りたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その牛込の帰りには長瀬時衡ながせときひら氏のお宅へ寄りました。飯田町いいだまち辺でしたろう。やはり陸軍の軍医をお勤めで、詩文のおたしなみがあり、お兄様とはお話が合うのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
初めは仲猿楽町に新居を構えたが、その後真砂町まさごちょう、皆川町、飯田町いいだまち東片町ひがしかたまちとしばしば転居した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
地方からの買出かいだし人が来ると、商談をまとめ、大きい木の箱にめて、秋葉原あきはばら駅、汐留しおどめ駅、飯田町いいだまち駅、浅草あさくさ駅などへそれぞれ送って貨車に積み、広く日本全国へ発送するのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明治六七年の頃、わたしうち高輪たかなわから飯田町いいだまちに移つた。飯田町の家は大久保何某なにがしといふ旗本はたもとの古屋敷で随分広い。移つてから二月ふたつきほど経つた或夜の事、私の母が夜半よなかに起きて便所に行く。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その町は飯田町いいだまちから汽車で行って、一時間ばかりの道程みちのりであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は彼を飯田町いいだまち駅まで送った。
飯田町いいだまち三丁目もちの木ざかした向側の先考如苞翁じょほうおうの家から毎日のように一番町なるわたしの家へ遊びに来た。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飯田町いいだまちのお嬢様はお帰京かえり遊ばす、看護婦さんまで、ちょっと帰京かえりますし、今日はどんなにさびしゅうございましてしょう、ねエ奥様。茂平もへい(老僕)どんはいますけれども
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その頃紅葉は飯田町いいだまちの国学院大学の横町にお祖父じいさんと一緒に住んでいた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
美成、字は久卿きゅうけい北峰ほくほう好問堂こうもんどう等の号がある。通称は新兵衛しんべえのち久作と改めた。下谷したや二長町にちょうまちに薬店を開いていて、屋号を長崎屋といった。晩年には飯田町いいだまち鍋島なべしまというものの邸内にいたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この間もちょっと話した飯田町いいだまち大久保おおくぼ殿の二番娘……
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……飯田町いいだまちへ行ってから、はじめてなんですもの。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前飯田町いいだまちにいた荒木のばあさんの家へも電話をかけたが、どうしても通じないんだ。今は四谷よつやにいるんだからね。実はこれから行って見ようかと思っていたところさ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「怒ってね、それで姉さんが心配して、飯田町いいだまちの伯母様に相談してね」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
建碑の事がおわってから、渋江氏は台所町の邸を引き払って亀沢町かめさわちょうに移った。これは淀川過書船支配よどがわかしょぶねしはい角倉与一すみのくらよいちの別邸を買ったのである。角倉の本邸は飯田町いいだまち黐木坂下もちのきざかしたにあって、主人は京都で勤めていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『歓楽』の一篇は初め『新小説』に掲載せし折には何事もなかりし故その頃飯田町いいだまち六丁目に店を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
飯田町いいだまち二合半坂にごうはんざか外濠そとぼりを越え江戸川の流を隔てて小石川牛天神うしてんじんの森を眺めさせる。
その頃わたくしの家は生れた小石川こいしかわから飯田町いいだまちへ越していたので、何かの折、その辺を歩き過る時、ぽつりぽつりと前後なくその頃の事が思い出される。昨夜見た夢を覚めた後に思返すようなものだ。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)