飛翔ひしょう)” の例文
夢とは何だろうか? 夢とは「現在ザインしないもの」へのあこがれであり、理智の因果によって法則されない、自由な世界への飛翔ひしょうである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
いつからとなく我々の心にまぎれこんでいた「科学」の石の重みは、ついに我々をして九皐きゅうこうの天に飛翔ひしょうすることを許さなかったのである。
心中に懐疑のはい回ってるグランテールは、アンジョーラの中に信仰の飛翔ひしょうするのを見るのを好んだ。彼にはアンジョーラが必要だった。
飛行機全台数二千機中六百台の偵察機は各母艦より飛翔ひしょうして輪形陣の進航前方を、交互こうご警戒し、時速三十キロにて北西に向い航行中なり……
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつのまにか鴎は自分の飛翔ひしょうの意味を忘れ、孤独のさわやかさも、愛することの恐怖も屈辱もそのよろこびも忘れはてて、ただ少女のヨットの上
朝のヨット (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そのうちの一機が、夏の日に、輝いて流れるヴィスワ川の上空から、ワルシャワの街の上を低く飛翔ひしょうしながら多数の紙片を撒いた。その紙片には
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
闘争の対象の無い自由思想は、まるでそれこそ真空管の中ではばたいている鳩のようなもので、全く飛翔ひしょうが出来ません。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
却って広さと遠さの無限のうちへ飛翔ひしょうしてしまったけれども、まったく不思議なことには、何か偉大な魂を感じ得るものが彼女に遺されたのである。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
真夏の白雲が、光の大鳥が、おもむろに飛翔ひしょうしている。そして空は全部、その大鳥の広げた翼におおわれている。
観客はその夢幻郷の蝴蝶こちょうになって観客席の空間を飛翔ひしょうしてどことも知らぬ街路の上に浮かび出るのである。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは、いつでも「一般論」の網を張りめぐらして、僕の飛翔ひしょうを妨げようとする。僕には、こいつを追っぱらうには、一たたき、羽を動かすだけでたくさんだった。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
その時刻の激浪に形骸の翻弄ほんろうゆだねたまま、K君の魂は月へ月へ、飛翔ひしょうし去ったのであります。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
左手の瓶もただ姿勢の変化のために役立てば結構である。重大なのはやはり超人らしさと人間らしさとの結合であって、そこに作者の幻想の飛翔ひしょうし得る余地があるのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
雛の翼が少しく発達してからは、親鳥が先に立って一度左へ向かって飛べば、次には右に向かって飛ぶというような順序に、規則に正しく、飛翔ひしょうの方法を教えているのを見た。
生物学より見たる教育 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
ときどき塔の相輪そうりんを見上げて、その水煙すいえんのなかにかしぼりになって一人の天女の飛翔ひしょうしつつある姿を、どうしたら一番よく捉まえられるだろうかと角度など工夫してみていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
潮の流れにのって移動する魚群があるかと思うと、波をけって海上に飛翔ひしょうする魚たちもある。少し深いところに住む魚たちはその肌の色も、浅いところに住む魚たちとはちがう。
海の青と空の青 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかしロケットでは、もう古くなったので、空想小説や、いわゆる科学空想映画では、重力を絶ち切る装置を造って、それで自由に空間スペース飛翔ひしょうする話が、ちょいちょい出て来ている。
あすへの話題 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
宮門の柏樹はくじゅが毎夜泣くとか、南方から飛翔ひしょうしてきた数千の鳥群がいちどに漢水へ落ちて死んだとか、不吉な流言をたてて、孔明の出軍をはばめようとする者もあったが、孔明の大志は
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御霊がはとのごとくにイエスの中に飛び込むのを感じた。それは目で見るほどの鮮やかな、はっきりした自覚であった。鳩は愛と和とを表徴する鳥でしかもその飛翔ひしょうする速力はすばらしく速い。
不気味なコウモリの飛翔ひしょうもまた、ここをいかにも場末らしく感じさせる。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
飛翔ひしょうして左膳の右腕へ命中した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
闘争の対象の無い自由思想は、まるでそれこそ真空管の中ではばたいている鳩のようなもので、全く飛翔ひしょうが出来ません。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その私の旅行というのは、人が時空と因果の外に飛翔ひしょうし得る唯一の瞬間、すなわちあの夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊ぶのである。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
本艦搭載の偵察機を飛翔ひしょうせしめ、赤外線写真を以て撮影せしめたる米国聯合艦隊の陣容を報告すべし。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
時には無限の境に飛び行かんとするほど軽く、ほとんど永遠の飛翔ひしょうを試みんとしてるがようであった。
自由な魂が宙をかすめてかける、空気に酔いながら鋭い声を発して空を横ぎる、つばめ飛翔ひしょうのように。……歓喜、歓喜! もはや何物もない! おう、限りなき幸福!……
L軸の方向に飛翔ひしょうせんとする翼を盲目的に切断せざらん事を切望するものである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして魏王宮の上を、悠々と飛翔ひしょうしながら、やがて掌を打ちたたき
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒衣の新夫婦は唖々ああと鳴きかわして先になり後になりうれえず惑わずおそれず心のままに飛翔ひしょうして、疲れると帰帆の檣上しょうじょうにならんで止って翼を休め、顔を見合わせて微笑ほほえ
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高原地方や山麓の焼土に多く生棲せいせいしていて、特に夏の日中に飛翔ひしょうする小虫をとらえた着眼点にある。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わが搭乗機だけが機首を西南に向けて飛翔ひしょうする。プロペラはものすさまじい悲鳴をあげていた。すれちがう毎に他の飛行機からは、赤旗をうちふってわれ等の快速力をとがめるのであった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
殺戮さつりくの天使の猛然たる飛翔ひしょうは、三度の稲妻に翼を縛られて、ぴたりと止まる。周囲ではまだすべてがおののいている。酔える眼はくらんでいる。心臓は鼓動し、呼吸は止まり、四痲痺まひしている……。
最も高きものより最も低きものに至るまで、あらゆる活動を眩暈げんうんするばかりの機械的運動の暗黒中に紛糾させ、昆虫こんちゅう飛翔ひしょうを地球の運動に結びつけ、大法の一致によってなすや否やはわからないが
いちばん珍しいのは空をおおうて飛翔ひしょうするいなごの大群である。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
千里韋駄天いだてん、万里の飛翔ひしょう、一瞬、あまりにもわが身にちかく、ひたと寄りそわれて仰天、不吉な程に大きな黒アゲハ、もしくは、なまあたたかき毛もの蝙蝠こうもり、つい鼻の先、ひらひら舞い狂い
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
儂は僚友のために、実はいつわりの報告をしたのだった。事実はこうだった、いいかね。あのとき、洋上を飛翔ひしょうしていた儂は、いつの間にやら僚機から遠く離れてしまっているのに気がついたのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なぜなら詩とは、独逸人の愛する如き純のクラシズムの美ではなくして、むしろかかる権力感へ飛翔ひしょうすべく、身構えられた主観の躍動にあるからだ。人はしばしば言う。独逸人の詩は科学であると。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それはもはや、以前にしばしば寄り集まり破裂し消えせたあの春の夕立雲ではなかった。それは真夏の白雲であり、雪と黄金との山であり、徐々に飛翔ひしょうして空を満たしてる光の大鳥であった……。