風致ふうち)” の例文
貞時は風致ふうちよろしき庭をひとまわり眺めやった。すべてが主人の好みが出ていて、その好みは築庭ちくていおうをきわめているようであった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ここはむかしから、都人の行楽地こうらくちとして有名である。戦争末期から戦後にかけては荒れていたが、いまは風致ふうちも整って、小綺麗になっている。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
と、霜枯れた風致ふうちの中に、同じ人生の暖かさ懐かしさを、沁々しみじみいとしんで咏むのであった。この同じ自然観が、芭蕉にあっては大いに異なり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ハガの入口、カペテントという野外カフェへ這入る。十七世紀の近衛兵営舎。門に一風致ふうち。お茶一杯一クロウネ十四オウル。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
やしろのたてものや境内けいだい風致ふうちなどはりっぱな神社仏閣に富むこの地方としてはべつにとりたててしるすほどでもない。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其畑の畔にはかやすすきが面白く穂に出て、捨て難い風致ふうちこみちなので其処だけわざ/\草を苅らずに置いたのであった。其れを爺さんが苅ってやると云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
風致ふうちもなく快楽もなきのみならず、あるいは行過ぎ、あるいは回り道して、事実に大なる損亡をこうむる者なきに非ず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ある駅ではその設備や風致ふうちにすこぶる注意を払っているらしいのもあるが、その注意があまりに人工的になって、わざとらしく曲がりくねった松を栽えたり
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まちを貫いて大川というのが流れている。上流は家疎いえまばらで、多少風致ふうちがある。此方こっちも閑潰しだ。側に坐って
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
向側にいきなうなぎやがあったが、そうなっては掛行燈かけあんどん風致ふうちもなにもなくなってしまった。この池に悲しい禿かむろが沈んだのだということが子供心を湿らせたに過ぎない。
プールとテニス・コートの全景をながめやり、まわりの風致ふうちに調和するような音楽的な声で
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
各地かくちにのこつてゐる、かういふ老樹ろうじゆ名木めいぼくは、たゞ植物學上しよくぶつがくじようまたは林業上りんぎようじようあるひは、風致ふうちうへからの研究けんきゆう資料しりようとして意味いみがあるばかりでなく、いづれも、數百年すうひやくねんまたは千餘年せんよねんあひだ
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
西洋の美術には見出しべからざる特長とくちょう観得かんとくする事が出来るならば、たといその特長が全体にわたらざる一種の風致ふうちにせよ、観得しただけそれだけその人の過去を偉大ならしむる訳である。
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
機械的大仕掛おおじかけの製造盛んに行われ、低廉ていれんなる価格を以て、く人々の要に応じ得べきに至るといえども、元来機械製造のものたる、千篇一律せんぺんいちりつ風致ふうちなく神韻しんいんを欠くを以て、ひとえに実用に供するにとどまり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
張総督邸は城内小高い風致ふうちのいい丘にある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただしその品行のげん風致ふうち正雅せいがとにいたりては、いま昔日せきじつの上士に及ばざるものすくなからずといえども、概してこれを見れば品行の上進といわざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「大騒ぎだったそうです。しかし平常ふだんこれ丈けの風致ふうちを添えていますから、静まってしまえば別に処分問題も起りません。よくしたもんです。桜島大根も取れますが、和歌に最も適した島と見えます」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やはり同じ前栽の風致ふうちを前にした小座敷。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文人畫ぶんじんぐわにでもありさうな風致ふうちへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
或は経史けいしを読み或は兵書を講じ、騎馬きば槍剣そうけん、いずれもその時代に高尚こうしょうなづくる学芸に従事するが故に、おのずから品行も高尚にしていやしからず、士君子しくんしとして風致ふうちるべきもの多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)