露出むきだし)” の例文
かと思へば、些細の事にも其齒を露出むきだしにして淡白きさくらしく笑ふ。よく物を言ふ眼が間斷なく働いて、解けば手に餘る程の髮は黒い。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の長い手袋をはずし爾して手首の所を露出むきだしにして余に示した、示されて余は見ぬ訳に行かぬ、見たも見たも歴々ありありと見たのだが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
で、女のふしだらが最も劇しく、最も露出むきだしに行はれてる間は、彼はぢつと虫を殺して之を眺めて居ることも出来た。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
僧かと見れば僧でもなく俗かと見れば僧のようでもある。季節は早春の正月むつきだというのに手に渋団扇しぶうちわを持っている。脛から下は露出むきだしで足に穿いたのは冷飯草履ひやめしぞうり
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天井、壁、柱、襖、障子、疊、各自異なる不快な汚れた色を露出むきだしにして居る日本の居室には、色彩の統一がないと同時に、又内部と外部との限界も立つて居ない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
なんらの怖れることと、はばかることがなしに、竜之助の刀の下へ、身を露出むきだしに持って来る者があります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嬰兒あかんぼ亭主ていしゆもごみ/\と露出むきだし一間ひとままくらならべて、晨起あさおき爺樣ぢいさま一人ひとりで、かましたたきつけてところで。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
腕は非常に長くて筋肉が張り切っていた。手も同様で、並々ならぬ把握力を持っているように見えた。極めて繊細に造られたその脚も足も、上肢と同じく露出むきだしであった。
激しい情熱が顔一杯に露出むきだしになっていたので、——意外にも洋装の美和子の姿が、ヒョッコリ三和土たたきの上に微笑むと、彼は表情のやり場に困って、顔や心を冷静に引きもどすために
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雲雀のは其のまはりの草もろくに生えぬ露出むきだし野地やらに有るのだ。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
肉の緊つた青白い細面の、醜い顔ではないが、少し反歯そつぱなのを隠さうとする様に薄い唇をすぼめてゐる。かと思へば、些細の事にも其歯を露出むきだしにして淡白きさくらしく笑ふ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そうかと言ってあからさまに忠告すれば、その愛情に水を差すようなものだし、またほかのことと違って、お前の素性すじょうはこれこれだろうと露出むきだしには女の口から言えないし
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真黒まっくろな円い天窓あたま露出むきだしでな、耳元を離した処へ、その赤合羽の袖を鯱子張しゃちこばらせる形に、おおきひじを、ト鍵形かぎなりに曲げて、柄の短い赤い旗を飜々ひらひらと見せて、しゃんと構えて、ずんずん通る。……
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ナンダつまらない」その名前倒れを露出むきだしにしながら、とにかくここで第一の旧家といわれる角屋すみやの前に足をとどめてみても、御多分ごたぶんに洩れぬ古くて汚ない構えである。
年の割に頭も禿げているし、露出むきだしに——学校教授、槙村まきむらと名刺で済ました。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、お由は、黒漿おはぐろの剥げた穢い歯を露出むきだしにして、ワツハヽヽと男の様に笑つたものだ。鍛冶屋のかどと此の家の門に、『神道天理教会』と書いた、たけ五寸許りの、硝子をめた表札が掲げられた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
またしても、お宿もと、お宿もと、そう露出むきだしに鎌を振り廻さなくとも、身分素姓が知りたいならば、もう少し婉曲えんきょくな言い廻しもあろうものを、いったい、最初からセリフが無器用だ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何とも知れぬかおりが、露出むきだしの胸にひやりとする。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お豊は露出むきだしにこう言いかけられて面が真紅まっかになります。わが隠し事をはらわたまで見透かされた狼狽ろうばいから、俯向うつむいてしまってにわかには言葉も出ない、足も立ちすくんでしまった様子であります。