隠匿いんとく)” の例文
旧字:隱匿
現在種子の名義になっている動産ならびに不動産は犯人が検挙せられる以前合法的に隠匿いんとくした私財の一部であるのかも知れない。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うずめておいた金銀が、土と共に掘り出された。盗むたびに、ここへ隠匿いんとくしておいたものとみえ、それはおびただしい額であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにもこの密集の中へ包んで、白根の山ふところへもちこんでしまえば、捜索の人を、永久に隠匿いんとくすることができる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこに、奇矯を絶したファウスト博士の懺悔ざんげ文が現われてくるのだ。勿論伸子は、それ以前に或る物体を、『接吻キッス』の像の胴体に隠匿いんとくしておいた……
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
本社は、今より二十四時間以内に問題の繭子夫人の隠匿いんとく場所又はその生死を確かめて本社調査部迄密報せられたる方に対し、懸賞金一万円を贈呈する!
それと同時に、支払を済ますまでは、首都から外へ出ないこと、財産を売却もしくは隠匿いんとくしないということもね。
「鵜の丸殿、嘉門殿、稀有のことがございます。……軍用金隠匿いんとくのその地点に、多数の人々がおりまする」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松下の村たる、南は大川を帯ぶ、川の源、渓間数十里、人く窮むるなし、けだし平氏遺民の隠匿いんとくする処。その東北二山の大なる者は唐人山と為す、朝鮮俘虜ふりょ鈞陶きんとうする処。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし己の方は若しも証拠隠匿いんとくの罪に落ては成らぬと一本残して置たのに彼奴きゃつ其一本を取れば後に残りが無いからとりも直さず犯罪の証拠を隠したに当る夫をしらないでヘンなにを
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
以後は深夜の時刻を選んで筆をり、日記帳の隠匿いんとく場所を変更することにきめたのであった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
諭吉自身が抱懐する政治的見解はこの書のすべてのページから最大の注意をもって隠匿いんとくされた。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
つみ隠匿いんとくすることはなんと苦労のいることだろう。ふたりは空気入れの方をあまりみてはいけないのである。さもないとやあ公がそれをあやしみはじめるかもしれないからだ。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その夫を櫃の中に隠匿いんとくして、これを救い出すという画策を案出したのであるが、これを実行するのは、種々の困難と、多大の危険とが伴うことは言をたないことであるから
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
隠匿いんとくされていたのだ。松林なので空からは見えない。ここに来た二、三日後、そのドラム缶のひとつに小さな穴があいていることを、福兵長が発見した。そして五郎に報告した。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ピアノやゴミ箱の様な手数のかかる方法によって死体を隠匿いんとくする理由もない訳ですから。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
乾雲丸を一時こうして隠匿いんとくして、かの五人組の火事装束に奪い去られたと称し、栄三郎をはじめ屋敷内の者をさえ偽ろうという極密ごくみつの計であったが、始終しじゅうを見とどけたおさよは
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれども、自分の隠匿いんとくの場所はわかるはずがないと思って、私はちっともどぎまぎしなかった。警官は私に彼らの捜索について来いと命じた。彼らはすみずみまでも残るくまなく捜した。
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
それはちょうどそのころ世の中を騒がしていた鈴弁事件と似たか寄ったかの米に関する詐欺事件だったが、隠匿いんとくの方法がそれよりも巧妙に出来ており、相手の弁護士をてこずらせていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
漢が天下を定めてからすでに五代・百年、始皇帝しこうていの反文化政策によって湮滅いんめつしあるいは隠匿いんとくされていた書物がようやく世に行なわれはじめ、文のおこらんとする気運が鬱勃うつぼつとして感じられた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そなたを罪に誘いそなたの良心を麻痺せしめ、そなたをかくのごとき大罪に陥れたる仏蘭西フランス婦人を、直ちに離婚せよ。奢侈しゃしと遊惰を去って、邸宅財物一切を、売り払え。隠匿いんとくせる被害品を、差し出せ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
六波羅の検察がきて、没取のやくに会わぬまにと、多量な武具材料の一切を、必死で隠匿いんとくしはじめた物音なのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてそれから、チェリーは室内をいまわって、魔薬まやくの入った煙草を探した。ついに煙草の隠匿いんとく場所がわかって、八本の特製のゴールデン・バットを手に入れた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巨億の財産を隠匿いんとくした場所を発見することが出来るという、そういう寸法にして置いたらしい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隠匿いんとくする世話がなくなること、他方では、死人の側に毒物の容器が落ちていれば、誰しも遠藤が自殺したのだと考えるに相違ないこと、そして、その瓶が遠藤自身の品であるということは
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
猪野は今一年有余の体刑をても、襤褸ぼろを出さないだけの綿密な仕組の下に、生涯裕福に暮らせるだけの用意をしたのであり、体刑は覚悟の前であったはずだが、金を隠匿いんとくしない反証にもと
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
佐和山女史の懐中からは、四宮理学士の撮った跫音あしおとの曲線をうつした写真が出た。それは多分、三階のどこかに学士が危険をおもんばかって、ひそかに隠匿いんとくして置いたものであろう。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
階下したを隔てている天井裏、そっと降りて見ると、荷抜屋ぬきや贓品ぞうひんがだいぶ隠匿いんとくしてあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「我々同志の軍用金、どこに隠匿いんとくしてありますので?」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
洛中における軍需物資の隠匿いんとく場所が突かれたのはもちろんのこと、具足の製作者や、刀鍛冶や弓師、または公卿の使用人なども、数珠ツナギに、日ごと五条大橋の上を追われて
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたしは、それから夕方までを、き夫の隠匿いんとくしている財産探しについやした。茶の間から始まって、寝室から、書斎の本箱、机の抽斗ひきだしそれから洋服箪笥ようふくだんすの中まで、すっかり調べてみた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
古金銀の隠匿いんとく闕所けっしょになり、浮浪の仲間入りしている味噌久を、口のかたい男と見て、鼠捕り薬を入れた揚団子あげだんごを背負わせ、人目につかぬ道まで苦労して、はるばるその決行に来たのだった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠匿いんとく、無用
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)