開闢かいびやく)” の例文
「この小さい村、皆な合せても百戸位しかいこの小さい村に、十五六軒ですだで、村開闢かいびやく以来の珍事として、大騒を遣つて居りますだア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
池中の蛙が驚いてわめいてるうちに、蛇は蛙をくはへた儘、あしの中へかくれてしまつた。あとの騒ぎは、恐らくこの池の開闢かいびやく以来未嘗いまだかつてなかつた事であらう。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
病氣が消滅したのか、ひそかに放任主義を執ることになつたゝめなのか、避病院といふこの村には開闢かいびやく以來の一種特別な建物は、年の暮れには不用になつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「我が国家開闢かいびやくより以来このかた、君臣の分定まりぬ。臣を以て君とることいまらざるなり。あまツ日嗣は必ず皇緒を立てよ。無道の人は宜しく早く掃除はらひのぞくべし。」
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「床の中で過失は變ぢやありませんか。おまけに首筋を刺身庖丁さしみばうちやうで切られて頓死は開闢かいびやく以來で——」
あはれむべからずや。(中略)今日の如き、実に天地開闢かいびやく以来興治の機運なるが故に、海外の諸国、天理の自然に基き、開悟発明、文化の域に至らむとする者少からず。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三日四日に歸りしもあれば一夜居て逃出しもあらん、開闢かいびやく以來を尋ねたらば折る指に彼の内儀さまが袖口おもはるゝ、思へばお峰は辛棒もの、あれに酷く當たらば天罰たちどころに
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
静けき村路に開闢かいびやく以来の大声をあげて歓呼しつゝ家国の光栄を祝したる事あり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
わが日本開闢かいびやく以來、はじめて舞樂のおもてを刻まれたは、勿體なくも聖徳太子、つゞいて藤原淡海ふぢはらのたんかい公、弘法大師こうぼふだいし倉部くらべ春日かすが、この人々より傳へて今に至る、由緒正しき職人とは知られぬか。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「講義が面白い訳がない。君は田舎者いなかものだから、今にえらい事になると思つて、今日迄辛防して聞いてゐたんだらう。愚の至りだ。彼等の講義は開闢かいびやく以来こんなものだ。今更失望したつて仕方がないや」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
急ぐ物から大家たいけの事ゆゑ出入でいりの者まで萬事行屆かする其爲に支度にかゝりて日を送りまだ當日さへさだめざりけりさても此方は裏店うらだな開闢かいびやく以來いらい見し事なき釣臺三荷の結納物をかつぎ入ける爲體ていたらくに長家の者は目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
畑の土は、開闢かいびやくこのかた、黒いもんか
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
この峨眉山といふ山は、天地開闢かいびやくの昔から、おれが住居すまひをしてゐる所だぞ。それもはばからずたつた一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「全くだよ、狸が泥棒したつて話は、開闢かいびやく以來だ。猫に小判ならわかるが、狸に小判ぢや洒落しやれにもならねえ。神田からわざ/\本所まで恥をかきに來たやうなものさ」
三日四日に帰りしもあれば一夜居て逃出にげいでしもあらん、開闢かいびやく以来を尋ねたらば折る指にあの内儀かみさまが袖口そでぐちおもはるる、思へばおみねは辛棒もの、あれにむごあたつたらば天罸てんばつたちどころに
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開闢かいびやく以来此世界に現れた、人、物、事、に就いては、少くも文字に残されて居る限りは大方知つて居るつもりであるが、未嘗いまだかつて、『完全なる』といふ形容詞を真正面から冠せることの出来る奴には
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)