鋤鍬すきくわ)” の例文
諸葛孔明はしょくの玄徳のために立たれるまでは、南陽というところで、みずから鋤鍬すきくわを取って百姓をしておいでになりましたのです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さらに手箱のうちから一具の鋤鍬すきくわと、一頭の木牛ぼくぎゅうと、一個の木人ぼくじんとを取り出した。牛も人も六、七寸ぐらいの木彫り細工である。
ただの百姓や商人あきゅうどなど鋤鍬すきくわや帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」とり集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞いとまごい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
そこの床几しょうぎから数歩をへだてた地上を今、数名の足軽たちが、鋤鍬すきくわを持って、大坑おおあなを掘りにかかっていた。あなのまわりには高く土が盛り出されていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の祖父から彼の代まで三代鋤鍬すきくわを取らなかった。彼もまた先代のように人のために通い船を出していた。毎朝一度魯鎮ろちんから城へ行って夕方になって帰って来た。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
稲田桑畑芋畑の連なる景色を見て日本国じゅう鋤鍬すきくわの入らない所はないかと思っていると、そこからいくらも離れない所には下草の茂る雑木林があり河畔の荒蕪地こうぶちがある。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて木から落ちた猿猴さるの身というものは意久地の無い者で、腕は真陰流に固ッていても鋤鍬すきくわは使えず、口は左様さようしからばと重く成ッていて見れば急にはヘイのも出されず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
田中さんは生れつき鋤鍬すきくわ作業は嫌いらしく、はたち前後から家を飛び出して、東京でいろんな職業にいたり、宗教団体に加盟したり、社会改良派の仲間入りをしたりして
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
思出すわ。……鋤鍬すきくわじゃなかったんですもの。あの、持ってたもの撞木しゅもくじゃありません? 悚然ぞっとする。あれが魔法で、私たちは、誘い込まれたんじゃないんでしょうかね。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
濰県いけんあたりとか聞いたが、今でも百姓が冬の農暇のうかになると、鋤鍬すきくわを用意して先達を先に立てて、あちこちの古い墓を捜しまわって、いわゆる掘出し物かせぎをするという噂を聞いた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
田崎と車夫喜助が鋤鍬すきくわで、雪をかきけて見ると、去年中きょねんじゅうあれほど捜索しても分らなかった狐の穴は、冬も茂る熊笹くまささかげにありあり見えすいて居る。いよいよ狐退治の評議ひょうぎが開かれる。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
土掻つちかきや、木鋏きばさみや、鋤鍬すきくわの仕舞われてある物置にお島はいつまでも、めそめそ泣いていて、日の暮にそのまま錠をおろされて、地鞴じだんだふんで泣立てたことも一度や二度ではなかったようである。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お蔦 成りそくなったら田舎へ帰って、鋤鍬すきくわを握るさ、うちはお百姓なんだろう。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
布令に応じて陣へまいったる仔細しさいはへいぜい鋤鍬すきくわを持つ身ながら、領民として恩義を忘れぬ心がけ武士におとらず、あっぱれにおぼし召さるるによって、蜆谷の川筋一帯、田地二町、山林五町
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「しかし、自分で鋤鍬すきくわを持って働くつもりなら何かやれんことはないさ」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
あるいは女人をあやめむと致し、又は女人の新墓にいはか鋤鍬すきくわを当つるなぞ、安からぬ事のみ致し、人々これを止むる時は、その人をも撃ち殺し、傷つけ候のみならず、吾身も或は舌を噛み、又はくびれて死するなぞ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古来農桑を御奨励になり、正月の初子はつねの日に天皇御ずから玉箒を以て蚕卵紙をはらい、鋤鍬すきくわを以て耕す御態をなしたもうた。そして豊年を寿ことほぎ邪気を払いたもうたのちに、諸王卿等に玉箒を賜わった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのため、雒城らくじょう鋤鍬すきくわ部隊は、毎夜のように堤防をうかがうが、どうしてもこれの決潰けっかいに手を下すことができない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いなごの襲来と伝わると、百姓は茫然、泣き悲しんで、鋤鍬すきくわも投げて、土蜂の巣みたいな土小屋へ逃げこみ
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総数三十二ヵ所の監視所から常備の将士が督励とくれいにあたっていたが、単なる督励そのものでは、ありのごとく土をにな鋤鍬すきくわをふるっている数千の者に、何の拍車も加え得なかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで五千の鋤鍬すきくわ部隊は、夜陰を待って、涪江ふこうの堤防を決潰けっかいすべく、待機を命じられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)