ばい)” の例文
宵子はまた足元の危ない歩きつきをして、松本の書斎の入口まで来て、四つばいになった。彼女が父に礼をするときには必ず四つ這になるのが例であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その男が飜訳物の探偵小説にでもある様に、犬の様に四つんばいになって、その辺の地面をまわったものだ。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
愚僧は地上に落ち候まゝ、ほとんど気絶も致さむばかりにて、ようや起直おきなおり候ものゝ、烈しく腰を打ち、その上片足をくじき、ばいになりて人知れず寝所しんじょへ戻り候仕末。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
謂いつつともしをふっと消す、後は真暗まっくら、美人はつまを引合せて身を擦抜けんとすきうかがい、三吉は捕えんと大手を広げておよび腰、老婆は抜かしてよつばい、いずれもだんまり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俗務をおッつくねて、課長の顔色をけて、しいて笑ッたり諛言ゆげんを呈したり、よつばいに這廻わッたり、乞食こつじきにも劣る真似をしてようやくの事で三十五円の慈恵金じえきんに有附いた……それが何処どこが栄誉になる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蒋門神しょうもんしんを四ツばいにさせて、武松、大杯の名月を飲みほす事
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの一行が測量の途次茫々ぼうぼうたる芒原すすきはらの中で、突然おもても向けられないほどの風に出会った時、彼らはばいになって、つい近所の密林の中へ逃げ込んだところが
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かんばしい、暖かな、とろりとした、春の野によこたわる心地で、枕を逆に、掻巻の上へ寝巻の腹んばいになって、蒲団の裙に乗出しながら、頬杖ほおづえを支いて、恍惚うっとりしたさまにその菫を見ている内
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うらの窓もける。窓には竹の格子が付いてゐる。家主やぬしの庭が見える。にはとりを飼つてゐる。美禰子は例の如くき出した。三四郎は四つばいになつて、あとから拭き出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちゅうぱらでずいと立つと、不意に膝かけの口が足へからんだので、かめばい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々病人の部屋がしんとするごとに、隣の女連の中へ、四ツばいに顔を出して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間の同情に乏しい実行も大分だいぶ見聞けんもんしたが、この時ほどうらめしく感じた事はなかった。ついに天祐もどっかへ消えせて、在来の通りばいになって、眼を白黒するの醜態を演ずるまでに閉口した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「居やあしねえや。」と弥吉は腹ンばいになって、のぞいている。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)