車宿くるまやど)” の例文
町内の口ききの、肉屋と米屋と車宿くるまやどの親方と床屋が、他所行よそいきの羽織を引かけて、一軒一軒説いて廻った。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
会社の直ぐ筋向うに一軒の車宿くるまやどがあったので、それとなく聞いて見ると、通常こう云う所では後のかゝり合いになるのを恐れて、容易に口を開かないものであるが
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そこらに宅の出入の車宿くるまやどがありましたが、その親方がいつも、「御前様ごぜんさまが、御前様が」といいますから、「御前様とは誰なの」と聞きましたら、「大乗寺の御前様でさあ」と
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
實家じつか上野うへの新坂下しんざかした駿河臺するがだいへのみちなればしげれるもりのした暗侘やみわびしけれど、今宵こよひつきもさやかなり、廣小路ひろこうぢいづればひる同樣どうやうやとひつけの車宿くるまやどとていへなればみちゆくくるままどからんで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
変にゴミ/\したような感じのする横丁を這入って行くと、軒の傾きかけたような車宿くるまやどがあった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
おくさまとろ/\としてお目覺めさむれば、まくらもとのゑんがはに男女なんによはなこゑさのみはゞかる景色けしきく、此宿こゝ旦的だんつくの、奧洲おくしうのと、車宿くるまやどの二かいふやうなるは、おくさま此處こゝにとゆめにもひとおもはぬなるべし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
づる大黒傘だいこくがさうへゆきつもるといふもなきばかりすみやかに立歸たちかへりて出入でいり車宿くるまやど名殘なごりなく出拂ではらひて挽子ひきこ一人ひとりをりませねばおどくさまながらと女房にようばう口上こうじやうそのまゝのかへごとらばなにとせんおたくにおあんじはあるまじきに明早朝みやうさうてう御歸館ごきくわんとなされよなど親切しんせつめられるれど左樣さうもならず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)