身近みぢか)” の例文
大空おおぞらをあおげば、ほし毎夜まいよのごとくわらったり、はなしをしたりしますけれど、やまはもっと身近みぢかに、ともだちをちたかったのでした。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつのまにか岡がきっと身近みぢかに現われるのが常なので、葉子は待ち設けていたように振り返って、朝の新しいやさしい微笑を与えてやった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もつとときは、なにとなく身近みぢかものおそ気勢けはひがする。ひだりがびくりとするときひだりから丁手掻ちよつかいで、みぎうでがぶるつとときみぎはうからねらふらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道子みちこ自分じぶん身近みぢか突然とつぜんしろヅボンにワイシヤツををとこ割込わりこんでたのに、一寸ちよつと片寄かたよせる途端とたんなんとつかずそのかほると、もう二三ねんまへことであるが
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
食料品しょくりょうひんをうっているこじんまりした店では、きゃくにつりせんをわたすために主人しゅじん銭箱ぜにばこのふたをあけた。そのとたん、主人しゅじんはすぐ身近みぢかに人のけはいがせまるような感じをうけた。
僅か改めればまた通じるという類の身近みぢかな伝説を、抱えていた民族の不幸とも考えられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは身近みぢかに來てゐた。そしてそれを遮るようにと天に祈りを上げなかつたので——を合せもしなければ、跪づくこともせず、唇を動かすこともしなかつたので——それは來たのだ。
勝手になれ。葉子を心の底から動かしそうなものは一つも身近みぢかには見当たらなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
で、両掌りょうて仰向あおむけ、低く紫玉の雪の爪尖つまさきを頂く真似して、「やうにむさいものなれば、くど/\お礼など申して、お身近みぢかかえつてお目触めざわり、御恩は忘れぬぞや。」と胸をぢるやうにつえで立つて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
葉子の目から見た親類という一群ひとむれはただ貪欲どんよく賤民せんみんとしか思えなかった。父はあわれむべく影の薄い一人ひとりの男性に過ぎなかった。母は——母はいちばん葉子の身近みぢかにいたといっていい。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)