蹲踞しやが)” の例文
四ツばひになつて雑巾掛をする時、井戸端で盥を前にして蹲踞しやがむ時、また重い物の上下しに上気じやうきしたやうに頬を赤くする顔色などを見る時
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
と、地面じべたのたくつた太い木根につまづいて、其機会はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリとれた。チヨツと舌鼓したうちして蹲踞しやがんだが、幻想まぼろしあともなし。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女はこんどはその隅の方にしやがむと、此處、此處よ、と、小さく叫んで男にもおなじやうに蹲踞しやがめと急きこんで言つた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
姉妹きやうだい流許ながしもと手洗てうづをつかひながら話した。お栄の方は水道の前に蹲踞しやがんで冷たい柔かな水でもつて寝起の顔を洗つて居た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そつとその中へ這入つて行くと、つゝじの眞盛りのなかに、麥藁帽子をかぶつた背の高い年寄りが、つくねんと蹲踞しやがんでさつきの鉢をいぢつてゐた。
旅人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
その折この詩人は穢い百姓家の入口に、老いた一人の印度人の婆さんが、だらしなく蹲踞しやがんで、薄穢い粘土製のパイプをくはへて、すぱすぱ煙草を喫してゐるのを見た。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
其所そこにも摺硝子すりがらすまつた腰障子こししやうじが二まいててあつた。なかでは器物きぶつあつかおとがした。宗助そうすけけて、瓦斯七輪ガスしちりんいたいた蹲踞しやがんでゐる下女げぢよ挨拶あいさつをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一尾を釣り得て彼は少なからず安堵あんどしたらしく、竿をば石の間に突き立てゝおいて、岩の上に蹲踞しやがんだ。兩手であごを支へて茫然と光る瀬の水を凝視して居る。自分との間は十間と距つてゐない。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
浜の草原くさはら蹲踞しやがんで
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と、地面に匐つた太い木の根に躓いて、其機會はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリと斷れた。チョッと舌皷して蹲踞しやがんだが、幻想は迹もない。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
手を放し顏をあげて見ると、男は初め自分が草の上に蹲踞しやがんだのに心づかず、二三歩行き過ぎてから氣がついたらしく、少し離れた處に立つてゐて
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
御苑の植込に所嫌はず西洋だねの苜蓿が一面にへ繁つて、女子供が皇宮警手くわうきゆうけいしゆの眼に見つからないやうに、そのなかに蹲踞しやがんで珍らしい四つ葉を捜してゐるのを見掛けるだらう。
りよはリュックを土間の片隅に降ろして、遠慮さうに蹲踞しやがんで、火のそばへ手をかざすと、「その腰掛へかけなよ」男は顎でしやくるやうに云つて、炎の向うにほてつてゐるりよを見た。
下町 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一人の男が上に蹲踞しやがんで云ふのです
樹木とその葉:13 釣 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
季子は男の腕が矢庭に自分の身體を突倒すものとばかり思込んで、蹲踞しやがむと共に眼をつぶつて兩手に顏をかくした。
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
支那人の多くは野球でも見るやうに、思ひ思ひに蹲踞しやがんだり、突つ立つたりして活動写真に見惚みとれてゐる。ある時、さうした小屋へき合はせた日本の同業者が、支配人の米国人に会つて
すると、女はどうしたのか、立ちもせず、却て半身を斜に片手を草の上につきましたから、それを機会に、その傍に歩み寄り、蹲踞しやがむが否や手を握りました。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
段々だら/\りの谿底たにそこに、蹲踞しやがむだやうな寺の建物が見え、其の屋根を見渡しに、ずつと向うの山根やまねちつぽけな田舎家がこぼれたやうにちらばつてゐて、那様あんな土地ところにも人が住むでゐるのかと思はしめる。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
すると、女はどうしたのか、立ちもせず、却て半身を斜に片手を草の上につきましたから、それを機會に、その傍に歩み寄り、蹲踞しやがむが否や手を握りました。
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのすぐそばに泥まみれのモンペをはき、風呂敷で頬冠をした若いおかみさんが、頭巾をかぶせた四五歳の女の子と、大きな風呂敷包とを抱へて蹲踞しやがんでゐたが
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おかみさんはほつと息をついて蹲踞しやがみかけると、背負つた米の重さで後に倒れ、暫くは起きられなかつた。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おかみさんは弁当の包を解き大きな握飯を両手に持ち側目わきめもふらず貪り初めたが、婆さんは身を折曲げ蹲踞しやがんだ膝を両手に抱込んだまゝ黙つてゐるのに気がつき
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
畠の縁に茂つた草が柔くくすぐるやうに足の指にさはる。季子は突然そこへ蹲踞しやがんでしまつた。
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのまゝ意久地なく其場に蹲踞しやがんでしまふと、どうしても立上ることができない。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やなぎ根元ねもと支木さゝへぎをよせかけながら蹲踞しやがんでしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)