貴公子きこうし)” の例文
のね、可愛かはいらしいのが、ときの、和蘭陀館オランダやかた貴公子きこうしですよ。御覽ごらん、——おちなさいよ。うしてならべたら、なんだか、ものりないから。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何がそれみろだ。余裕は僕に返せと云わないという意味が君にはよく解らないと見えるね。気の毒なる貴公子きこうしよだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その唇は二枚の小さき花弁かべんの如く、その鼻は美しき貴公子きこうしの鼻と異なる所なく必ず細き曲線に限られ、またその眼は二つの穴の真中に黒点を添へたるに過ぎず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すわと、弥次馬やじうまは、うしおのごとくたちさわいだ。——と、その群集のなかから、まじろぎもせずに、朱柄の槍先をみつめていた白衣びゃくえ六部ろくぶと、ひとりの貴公子きこうしふうの少年とがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらがみ束髮そくはつ薔薇ばらはなかざりもなき湯上ゆあがりの單衣ゆかたでたち、素顏すがほうつくしきなつ富士ふじひたひつきのこりて、をぎ秋風あきかぜふけどほたるねきし塗柄ぬりゑ團扇うちは面影おもかげはなれぬ貴公子きこうしあり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
カピューレット長者ちゃうじゃさきに、年若としわか貴公子きこうしパリス(下人げにんにんいて)る。
ひとつの、和蘭館オランダくわん貴公子きこうしと、父親ちゝおや二人ふたりきやくで。卓子テエブルあをはちあをさらかこんで向合むきあつた、唐人たうじん夫婦ふうふ二人ふたり
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ただ見る——白い月の裾野すそのを、銀の奔馬ほんばにむちをあげて、ひとつのくらにのった少年の貴公子きこうしと、覆面ふくめんの美少女は、地上をながるる星とも見え、玉兎ぎょくとが波をけっていくかのようにも見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酋長しうちやうから買取かひとつて、和蘭陀オランダの、貴公子きこうしが、うちおくりものにした——うね、おまへさんの、あの、御先祖ごせんぞふと年寄染としよりじみます、時分じぶんわかいのよ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)