おん)” の例文
「種ちゃん——これが木曾きその伯母さんですよ。お前さんの姉さん達は、よくこの伯母さんが抱ッこをしたり、おんぶをしたりしたッけが……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ではおんぶしてお父さまを見にまゐりませう。ちやんと涙を拭いて——もういゝでせう? お父さんはぢきお帰りなさいますのですからね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「去年皇居に火事があつたとき、皇子さまをおんぶしてお逃がし申したのはお前ぢやな。」と、その大納言が申しました。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
口惜しかったから、背中の上で飛びはねてやった。するとすぐに縁側に下された。今度は私がおんぶしてみようと云って、叔母さんがおぶってくれた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
……ほんにね、北海道に十六年居る間でも、一人をおんぶして、二人の手をいて、一人を前に歩行あるかせて、雪や氷の川端へ何度行った事やらね。因果とごうや。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瀧「はいそれはまア何よりの品を有難うございます、さアずっと此方こちらへお出でなさいまし、おや子供しゅおんぶで、其処は蚊が刺しますから団扇をお遣いなすって」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は兵さんが、弟をおんぶしながら身軽にどんどん奥の方へわけ入って行くのでこわくなった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
田の境のどぶにはがツンツン出て、雑草が網のやうに茂つてゐた。見てると街道には車が通る、馬が通る、をたゞおんぶした田舎のかみさんが通る、脚絆きやはんかふかけの旅人が通る。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もらいたては、儂がいつけおんぶで三軒茶屋まで二里てく/\らくに歩いたものだが、此の頃では身長三尺五寸、体量たいりょう四貫余。友達が無いがさびしいとも云わずそだって居る。子供は全く田舎で育てることだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何処いずれへなりとも、但しおんぶで」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おほほほほ、さようでございましたよ。殿様がおんぶ遊ばしますと、少嬢様ちいおじょうさまがよくおむずかり遊ばしたンでございますね。——ただ今もどんなにおうらやましがっていらッしゃるかもわかりませんでございますよ」と気軽に幾が相槌あいづちうちぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「坊ちゃまですか。めんめを御覚おさましだもんですから、御隠居様がおんぶなさいまして、表の方へ見にいらッしゃいました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御所車の横の方の御簾みすが少しあがつて、そこからこちらを御覧になつておいでなさるのは、去年おぢいさんがおんぶして火事場をおにがし申した皇子さまでした。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
いまも中六番町まへまち魚屋さかなやつてかへつた、家内かないはなしだが、其家そこ女房かみさんおんぶをしてる、誕生たんじやうましたばかりの嬰兒あかんぼに「みいちやん、おまつりは、——おまつりは。」とくと、小指こゆびさきほどな
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それきり何とも云われなかったけれど、あんな恐いことはなかった。——叔父さんが非常に機嫌がよかった。背中におんぶしてやろうと云われた。愚図々々してると、なぜおぶさらないんだと叱られた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「種ちゃん、いらッしゃい、豊世叔母ちゃんがおんぶしてげましょう——表の方へ行って見て来ましょうネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いいえ、乳母ばあやさんにおんぶをなすって、林檎りんご両個ふたつ、両手へ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)