がく)” の例文
又、まんまるにふくらんだ白いつぼみが、内に燃える発動はつどうがくのかげに制御せいぎょしながら、自分の爆発する時期を待っているのもいいものです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
これが集つてがくといふものを造つてゐるのだ。残りの赤い部分は花冠と云ふものだ。此の名は初耳だらうがよく覚えておくがいゝ。
怠惰な片手に引摺られて張った乳。——参木はいつの間にかむしり取られた白蘭花パーレーホーがくだけを、酒の中で廻しているのだった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
門ともいえぬ形ばかりの入口には、大きな柿の木の若葉が繁茂していて、そこらの日蔭の湿地には青白い花屑やがくがいッぱい散りえていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
對岸の崖には山百合の花、がくの花など、雨に搖られながら咲きしだれてゐるのが見えた。その上に聳えた山には見ごとに若杉が植ゑ込んであつた。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
朱塗りの小燭台のような、堅いがくの上に、数片の赤い花弁が乱れている。雨は屋根の瓦を打ち、軒廂のきびさしを叩き、木木の葉を鳴らして、かまびすしい。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
花色かしょくは紫のものが普通品だが、また栽培品にはまれに白花のもの、白地しろじ紫斑しはんのものもある。きわめてまれにがく、花弁が六へんになった異品がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
庭には沈丁花ちんちょうげあまが日も夜もあふれる。梅は赤いがくになって、晩咲おそざき紅梅こうばいの蕾がふくれた。犬が母子おやこ芝生しばふにトチくるう。猫が小犬の様にまわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして空のはちすずめのめぐりもさけびも、にわかにはげしくはげしくなりました。うめばちそうはまるで花びらもがくもはねとばすばかり高くするどさけびました。
葉序は互生、基部狭隘、辺縁に鋸歯きょし状の刻裂がある。四枚の花弁と四個のがく、花冠は大きく花梗は長い。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あんたは、それこの間、感冒にかかって一週間ほど部屋で寝ていたでしょう。あのとき、部屋の隅に猫柳のまだ花はがくに包まれたまゝなのが花活けに挿してあった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一寸位の小さい花梗の頭に、同じく八個のがくを台にして、安住している、同じ日本アルプスでも、他所の長之助草に比べて、花でも葉でも、一と際小さい方であるが
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
たいがい能く熟れ切った杏のがくは弱くなっていて、美しい円形をえがいて花火のように落ちてくるのであった。そういうときは、子供らは一斉に歓喜に燃えた声をあげた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大きなべんは卵色に豊かな波を打って、がくからひるがえるように口をけたまま、ひそりとところどころに静まり返っている。においは薄い日光に吸われて、二間の空気のうちに消えて行く。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一つの性質を改善しようとしてもう一つの美をそこねてしまうかもしれない。その大きさを増そうとして肥料を余計使えばおそらくがくが破れて直ちに均斉が失われてしまうであろう。
がくのいろ雨に浮きたり。呼びそめぬ、ラヂオのニユース、フラン落ち、巴里暴動す、ポアンカレーまた世に出でむ。子らよよし、冷麥ひやむぎ食べむ、實山椒はやつこにつけむ、月待ちがてら。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
学校で、修身の講義を聞きながら、ぼんやり窓の外をながめていた。窓一ぱいにあんなに見事に咲いていた桜の花も、おおかた散ってしまって、いまは赤黒いがくだけが意地わるそうに残っている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
桜 さつぱりした雨上あまあがりです。もつとも花のがくは赤いなりについてゐますが。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なるほど、今年は無殘、グリイン・ゲエブルスといふ、緑の切妻きりづまのある、イギリスの老婦人の住んでゐる小さな家の裏に吹いてゐたがくの花と、チェッコ公使の別莊の廣々とした芝生だけが鮮やか。
雨後 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
すなわちその子房らしいところは花の顔すなわち花被になっているがくの下に続く部の括びれたところで、それはやや質の厚い筒をなした花托なのである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
丁度小豆粒ほどの大きさで幾重かのがく見たやうな薄皮で包まれてゐる。然し、いま咲く花もあるまい、さう思ひながら私はその一つを枝から摘み取つて中をほぐして見た。
青軸あおじくまた緑萼りょくがくと呼ばるゝ種類の梅で、花はまだ三四輪、染めた様に緑ながくから白くふくらみ出たつぼみの幾箇を添えて、春まだ浅い此の二月の寒を物ともせず、ぱっちりと咲いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しぼんだ朝顔を逆さに懸けたような形の紙帳の、そのがくにあたる辺を睨み、依然として刀を構えていたが、次第に神気こころが衰え、刀持つ手にしこりが来、全身に汗が流れ、五体からだに顫えが起こり
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この暑さまだし堪ふべし色褪せてがくあぢさゐはほろほろの花
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
もつとも花のがくは赤いなりについてゐますが。
新緑の庭 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
花は花下かかに緑色の下位子房かいしぼうがあり、はば広いがく三片がれて、花を美しく派手はでやかに見せており、狭い花弁かべん三片が直立し、アヤメの花と同じ様子ようすをしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
がく元来がんらい、八へんよりなっているが、しかしその外側の小さき四片は早く散落さんらくし、内側の四片が残って花弁状をていし、卵状披針形らんじょうひしんけいをなしてとが平開へいかいしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)