胴衣チョッキ)” の例文
すると、ボーイは首肯うなずいて部屋を出て行ったが、間もなく等身大のわら人形をかかえて戻って来た。藁人形には不格好に胴衣チョッキが着せてあった。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが父親のほうは、上等の黒羅紗の上着と白い胴衣チョッキとを着た、丈の高い肩幅の広い男で、その胴衣には、金縁の鼻眼鏡がつるさがっていた。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
その結果、小野さんの胴衣チョッキの襟とシャツとの間から三尺ばかりの細い黒いリボンを発見することが出来たのでございます。
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
そのうちに青白い毛ムクジャラの手を胴衣チョッキの内ポケットに入れて、一枚のカード型の紙片を探り出しますと、私の顔を意味ありげにチラリと見ながら
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丹前の胸を開いて、違棚ちがいだなの上から、例の異様な胴衣チョッキを取り下ろして、たいななめに腕を通した時、甲野さんは聞いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
体格のたくましい谷村博士は、すすめられた茶をすすったのち、しばらくは胴衣チョッキ金鎖きんぐさりを太い指にからめていたが、やがて電燈に照らされた三人の顔を見廻すと
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この信号をお聞きになりましたら、直ぐ救命胴衣チョッキあるいは救命浮帯ヴイを御着用の上、甲板上に御参集を願います。
少し舊式の胴衣チョッキの上へ、短かい上衣の胸をはだけて着てゐるそのヤンの新らしい着物は、パリ人を見馴れた彼女の眼には、恐らく大して立派なものではなかつた。
わしはもうこんな事には一日も耐えられそうにないよ。そこでだね」と続けながら、彼は床几から飛び上がるようにして、相手の胴衣チョッキの辺りをぐいと一本突いたものだ。
帽子や上衣や胴衣チョッキを左右に投げ出して、世界を征服するような元気で仕事にかかった。あちらこちらに散らかってる音楽の草稿を取り上げた。が心はそこになかった。ただ眼で読んでるばかりだった。
黒上衣の、白胴衣チョッキの、佇立ちょりつした、密集した、幾段々になった
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
谷村博士はそう云ったぎり、沈んだ眼を畳へやっていたが、ふと思い出したように、胴衣チョッキの時計を出して見ると
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかして愈々いよいよ開始の際には汽笛長声一発とともに銅鑼を連打致します故、直ぐ救命胴衣チョッキあるいは救命浮帯ヴイを御着用のうえ、定めの場所へ御参集を願います。
一人は胸開むねあきの狭い。模様のある胴衣チョッキを着て、右手の親指を胴衣のぽっけっとへ突き込んだままひじを張っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胴衣チョッキはただ細い黒い一本の筋に過ぎないし、また燕尾服の上着は、ようやく胃のずっと下のあたりに来て、一つボタンで合されていて、おまけに肩のところから
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
黒っぽいモーニングコートにしまズボン白胴衣チョッキの轟氏がタダ独りで、事務机の前の廻転椅子に腰をかけて、金口きんぐち煙草を吹かしながら一時二十五分を示している正面の大時計を見ている。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寝台の上には、上衣を脱いだ胴衣チョッキ一枚の林一郎が、左胸に貫通銃創かんつうじゅうそうを受けて横たわっていた。生々しい血潮は、胴衣から流れて白いシーツをくれないに染め、まだ乾ききらず血の匂いを漂わしている。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
クリストフは胴衣チョッキの胸を開いて、強く息をした。
鼠の勝ったひんの好い胴衣チョッキ隠袋かくしには——恩賜の時計が這入はいっている。この上に金時計をとは、小さき胸の小夜子が夢にだも知るはずがない。小野さんは変っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敏子の声には今までにない、荒々あらあらしい力がこもっている。男はワイシャツの肩や胴衣チョッキに今は一ぱいにさし始めた、まばゆい日の光を鍍金めっきしながら、何ともその問に答えなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
相手の紳士はそうした私の顔を、その黒い、つめたい執念深い瞳付めつきで十数秒間、凝視ぎょうししておりましたが、やがてまた胴衣チョッキの内側から一つの白い封筒を探り出して、うやうやしく私の前に置きました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
 ハ 救命胴衣チョッキ或いは救命浮帯ヴイの着用方。
下は仕立したておろしのフロックに、近頃流行はやる白いスリップが胴衣チョッキ胸開むねあきを沿うて細い筋を奇麗きれいにあらわしている。高柳君はなるほどいい手際てぎわだとうらやましく眺めていた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのえんじゅに張り渡した、この庭には似合にあわない、水色のハムモックにもふりいている。ハムモックの中に仰向あおむけになった、夏のズボンに胴衣チョッキしかつけない、小肥こぶとりの男にもふり撒いている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして冷たい、青白い眼付きで、チラリと私を一瞥しただけで、そのまま静かに眼を伏せると、左手で胴衣チョッキのポケットをかい探って、大きな銀色の懐中時計を取り出して、てのひらの上に載せた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「こうすると引き立ちますよ」と云ってもとの席に返る。小野さんの胴衣チョッキの胸には松葉形に組んだ金の鎖が、ボタンの穴を左右に抜けて、黒ずんだメルトン地を背景に燦爛さんらん耀かがやいている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Cocked hat と云うのであろう。銀のふちのある帽子ぼうしをかぶり、刺繍ぬいとりのある胴衣チョッキを着、膝ぎりしかないズボンをはいている。おまけに肩へ垂れているのは天然てんねん自然の髪の毛ではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
青年は上衣と胴衣チョッキを脱いでワイシャツ一つのネクタイを緩めているし、眉香子も丹前を床の上に脱ぎ棄てて、派手な空色地の長襦袢じゅばんに、五色ダンダラの博多織の伊達巻を無造作に巻きつけている。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)