羽目板はめいた)” の例文
うまやの方面は騒々しい。十頭ほどの馬が床を蹴り羽目板はめいたを打って狂いぬいている。うち二頭ほどはついに横木をはずして外へ暴れ出した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くまは、後足あとあしで立ち上がったまま赤いランプの光におびえてか、つめをとぐねこのように、バリバリとそばの羽目板はめいたに爪をたてた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
少年は、幕をかゝげてつと陣小屋の羽目板はめいたに寄り添うと、暫く内部の人のけはいに耳を澄ましたが、何の物音も聞えて来ない。
すでに棲む人の姿はなく、壁は落ち、羽目板はめいたは外れて、夜風は身に沁みて吹き渡り、床の隙間に雑草がのびて、風吹くたびにその首をふった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その角からまがる茶室の羽目板はめいたもろとも南の陽を内懐に挟み溜め、ちょうどこの木に対して片箱フレームの作用をするからでもありましょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この大河内家の客座敷から横手に見える羽目板はめいた目触めざわりだというので、椿岳は工風をしてひさしを少し突出つきだして、羽目板へ直接じかにパノラマ風に天人の画を描いた。
栄吉は問屋場の御改おあらたじょになっている小さい高台のところへ来て、その上に手を置き、吉左衛門はまたその前の羽目板はめいたに身を寄せ、蹴込けこみのところに立ったままで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
羽目板はめいたはところどころずり落ち雨戸もまだついていないゆえほんの雨つゆのしのぎになるばかり
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
仁右衛門はちょうどそこに行き合せた。彼れは入口の羽目板はめいたに身をよせてじっと聞いていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのくせこわいもの見たさに立留たちどまって見ていると、なんじゃないか、やがて半分ばかり垣根へ入って、尾を水の中へばたりと落して、鎌首かまくびを、あの羽目板はめいたへ入れたろうじゃないか。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隅っこの羽目板はめいたへペタンと身体をへばりつけてしまう。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また、青ざめし羽目板はめいたの安料理屋の窻の内
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小銃のそれだまが、地を掘ったり、民家の羽目板はめいたに、穴をあけた。佐々勢も、いっとき、奮戦を見せたが、そのうちに、後へ後へと、崩れ立った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとずさりをして、羽目板はめいたにぶつかってしまったくまは、のがれ道のないことをさとったものか、すごい形相ぎょうそうをし、きばをむきだしてとびかかりそうな身がまえをした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
栄吉は羽目板はめいたの上の位置から、台の前の蹴込けこみのところに立つ伊之助の顔をながめながら、長年中風をわずらっているあの叔父がここまで持ちこたえたことさえ不思議であると語っていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いけはひつくりかへつてもらず、羽目板はめいたちず、かべやぶれ平時いつものまゝで、つきかたちえないがひかり眞白まつしろにさしてる。とばかりで、何事なにごとく、手早てばやまた障子しやうじめた。おとはかはらずきこえてまぬ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いきなり弓の折れを持って、羽目板はめいたをピシリッとうった。その音のはげしいこと、蛾次郎のふるえあがったのはむろん、菊池半助きくちはんすけさえ度胆どぎもを抜かれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし火を見たとたんに、逆上ぎゃくじょうしている頭では、七けん四方ばかりな羽目板はめいたに、一つの出口がなかなか見つからない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう見えたのもつかので、とつぜん、奉行小屋ぶぎょうごやはしらが、すさまじい音をして折れたかと思うと、か、にくか、白木しらき羽目板はめいたへまッなものが、牡丹ぼたんのように飛びちった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆうべ、ちょっと見かけたここのお内儀かみも久助も、まだグッスリと寝坊している様子です。羽目板はめいたがソックリるほど照りつけている外の陽に、家の中は蒸籠せいろのように蒸されています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)