羊羹やうかん)” の例文
ときにはおうさんのむらなぞにいめづらしい玩具おもちやや、とうさんのきな箱入はこいり羊羹やうかんとなりくにはうから土産みやげにつけてれるのも、あのうまでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
してゆくはう餘程よつぽどよう御座いますアノ久兵衞さんが何時いつもと違つて藤助さんの所へゆくときには莞爾々々にこ/\して饅頭まんぢうだの羊羹やうかんだの又錢だのと種々いろ/\な物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
曲者は紋所はわからないが、兎も角も羊羹やうかん色の紋附を着て居るし、短いのを一本差したきりだといふが、腕は確りして居る。
夜半やはん隅田川すみだがはは何度見ても、詩人S・Mの言葉を越えることは出来ない。——「羊羹やうかんのやうに流れてゐる。」
都会で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この帽子と羊羹やうかん色になりたる紋付羽織とのために、同船の一商人をして我を天理教の伝道師と見誤らしめき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さて此者が工風とてはじめて煉羊羹ねりやうかんと名づけてうりけるに(羊羹やうかん本字は羊肝やうかんなる事芸苑日鈔げいゑんにつせうにいへり)
談話はなし聽人きゝてみな婦人ふじんで、綺麗きれいひと大分だいぶえた、とたちのであるから、羊羹やうかんいちご念入ねんいりむらさき袱紗ふくさ薄茶うすちや饗應もてなしまであつたが——辛抱しんばうをなさい——さけふものは全然まるでない。が、かねての覺悟かくごである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たとへそれが羊羹やうかんいろでぼろぼろで
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「これへは羊羹やうかんを入れなさい。(室生は何何し給へと云ふ代りに何何しなさいと云ふのである)まん中へちよつと五切いつきればかり、まつ黒い羊羹やうかんを入れなさい。」
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
五十年輩の羊羹やうかん色の羽織と共に、世にも人にも摺れた男で、一筋繩では行きさうもありません。が、いて行つた平次の顏を見ると、さすがにギヨツとした樣子で
さて此者が工風とてはじめて煉羊羹ねりやうかんと名づけてうりけるに(羊羹やうかん本字は羊肝やうかんなる事芸苑日鈔げいゑんにつせうにいへり)
「暮から何千兩とかせいだ曲者が、喰い詰め者らしく何時までも羊羹やうかん色の紋附は變な裝束だな」
それがひねつこびた教坊けうばうの子供らしくなくつて、如何いかにも自然ない心もちがした。自分はつてゐて、妙に嬉しかつたから、踊がすむと、その舞妓に羊羹やうかんだの椿餅だのをとつてやつた。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その間にお辰は茶を入れて、厚切の羊羹やうかんとこぼれるばかりの愛嬌とを一緒に持つて來ました。
三八夏は蚊帳かやの代りにせし身を腰元こしもと共にとこあふがせ、女房は又しうとめにあたへし乳房ちぶさ虎屋とらや羊羹やうかんにしかへ、氷からこひも古めかしと、水晶の水舟みづぶねに朝鮮金魚を泳がせて楽しみ、これ至孝のいたす所なり。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
骨と皮ばかりの青黒くからびた身體を、羊羹やうかん色になつた破れ御衣ごろもに包んで、髯だらけの顏、蟲喰むしくひ頭、陽にけて思ひおくところなく眞つ黒になつた顏を少し阿呆あほたらしく擧げて
「騷々しいな、何が一體口惜しいんだ。好物の羊羹やうかんでも喰ひ損ねたのか」
「親分、羊羹やうかん色の紋附なんかありませんよ」
「お靜、序に羊羹やうかんもあるだらう」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)