緋毛氈ひもうせん)” の例文
と、次々に深紅の血汐が、ポカリポカリと水面へ浮かび、その辺一面見ている間に緋毛氈ひもうせんでも敷いたように、唐紅からくれないと一変した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
広い客間の日本室を、雛段は半分なかばほども占領している。室の幅一ぱいの雛段の緋毛氈ひもうせんの上に、ところせく、雛人形と調度類が飾られてあった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
次の部屋は、打って変って明るく、緋毛氈ひもうせんの腰掛を据えて「お茶を差上げます」と書いた柱掛けなどが下がっております。
緋毛氈ひもうせんの敷かれていた俄か造りの涼み台は、そして浴衣がけの手に団扇をもった日本人の男女たちは、はたして少女の記憶にのこったことだろうか。
昼の花火 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
お仮住いなので広くはありませんが、床の間に緋毛氈ひもうせんをかけた一間幅いっけんはばの雛段は、幾段あったでしょうか。幾組かの内裏雛、中には古代の品もありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そして緋毛氈ひもうせんの上へ的台まとうだいのかわりになってあぐらをくみ、なにか与三よさもどきに暴言を吐いておりますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舞台は、桜の花など咲いた野外が好ましいが、室内で装置する場合には、緑色の布を額縁としてくぎり、地は、春の土を思わせるような、黄土色の布か、緋毛氈ひもうせんを敷きつめる。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
女房かみさんは立ったついでに、小僧にも吩咐いいつけないで、自分で蒲団ふとんを持出して店端みせばなの縁台に——夏は氷を売る早手廻しの緋毛氈ひもうせん——余り新しくはないのであるが、向う側が三間ばかり
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葦簾のかげに緋毛氈ひもうせん敷いた腰かけが並んで、茶碗に土瓶どびん、小暗い隅には磨きあげた薬罐やかんが光り、菓子の塗り箱が二つ三つそこらに出ている——ありきたりの水茶屋のしつらえ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
塀で構われた小さな馬場を思わせる空地の周囲ぐるりの桜の木々が一時に満開して、そこへ町家の人たちが緋毛氈ひもうせんを敷き、重詰めを開き、ちろりのお酒をお燗して、三味線を弾いてさんざめいた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
惨殺ざんさつ、麻酔、魔薬、妖女ようじょ、宗教———種々雑多の傀儡かいらいが、香の煙に溶け込んで、朦朧もうろうと立ちめる中に、二畳ばかりの緋毛氈ひもうせんを敷き、どんよりとした蛮人のようなひとみえて、寝ころんだまま
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その昔、芝居茶屋の混雑、おさらいの座敷の緋毛氈ひもうせん、祭礼の万燈まんどう花笠はながさったその眼は永久に光を失ったばかりに、かえって浅間しい電車や電線や薄ッぺらな西洋づくりを打仰ぐ不幸を知らない。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父母とともに行く歌舞伎座かぶきざや新富座の緋毛氈ひもうせんの美しい棧敷さじきとは打って変って薄暗い鉄格子てつごうしの中から人の頭を越してのぞいたケレンだくさんの小芝居の舞台は子供の目にはかえって不思議に面白かった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
花のない時も、桜若葉が青々と涼しそうに長く続いて、その間に掛茶屋の緋毛氈ひもうせんがちらちらと目に附きます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
昼はいくらか客もありますが、日が暮れるとサッと店をしまって、婆さんと娘が、菓子箱と緋毛氈ひもうせんを背負い、大薬缶おおやかんをブラ下げて自分の家へ帰ってしまいます。
琴が、生田いくた流のも山田流のも、幾面も緋毛氈ひもうせんの上にならべてあった。三味線しゃみせんも出ている。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
先に立って、船の内へ導いて行ったが、見れば、とも寄りの一かくとばりをめぐらし、緋毛氈ひもうせんをしき、桃山蒔絵まきえの銚子だの、料理のお重だの、水の上とも思われない、豪奢ごうしゃな小座敷がこしらえてある。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見上げた破風口はふぐちは峠ほど高し、とぼんと野原へ出たような気がして、えんに添いつつ中土間なかどまを、囲炉裡いろりの前を向うへ通ると、桃桜ももさくらぱっと輝くばかり、五壇ごだん一面の緋毛氈ひもうせん、やがて四畳半を充満いっぱいに雛
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そればかりか私の家なぞは祭りと言っても別段何をするのでもないのに引き替えて商家では稼業かぎょうを休んでまでも店先に金屏風きんびょうぶを立て廻し、緋毛氈ひもうせんを敷き、曲りくねった遠州流の生花を飾って客を待つ。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
上京内裏かみぎょうだいりの東から南への馬場八町には、若草の色もまだ浅く、さくのところどころの八尺柱は、緋毛氈ひもうせんでつつまれていた。そして、禁裡きんり東之御門外のあたりに、御出御ごしゅつぎょをあおぐ行宮あんぐうは建てられてあった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中央の畳に緋毛氈ひもうせんを敷き、古風なかねの丸鏡の鏡台がすえてあった。
ただ緋毛氈ひもうせんのかわりに、敷妙しきたえの錦である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と細い段の緋毛氈ひもうせん
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)