絨緞じゅうたん)” の例文
もっともその煉瓦のうえには、立派な絨緞じゅうたんいてあったが、それは小さくて、本棚の下は煉瓦れんがだけがむき出しになっていた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼自身もまた、「文芸の大製作所の片隅かたすみに、古い絨緞じゅうたんを繕ったりすたれた古代のやりをみがいたり」してるところを示していた。
絨緞じゅうたんの上についた足跡を消して露台に近づき、再び少女たちの方を振り向いて丁寧に頭を下げ、つとそのまま姿を消した。
色の白い奥さんの頬の黒子ほくろから絨緞じゅうたんの模様までを、思い出すことが出来るし、ある折、ぼくを独り遊ばせておいて、奥さんと主人の小沼さんが
絨緞じゅうたんを織る工場の女工なんぞが通り掛かって、あの人達は木の下で何をしているのだろうと云って、驚いて見ていました。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また榻の脚下あしもとになったほうには、絨緞じゅうたんの上に蒲団ふとんを敷いて五六人の男が坐っていたが、これも俯向うつむいたり、うしろの壁に寄っかかったりして眠っていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
びた朱いろの絨緞じゅうたんを敷きつめたところどころに、外国製らしい獣皮の剥製はくせいが置いてあり、石膏せっこうの女神像や銅像の武者像などが、規律よく並んでいる。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの正面玄関の絨緞じゅうたんが敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
気がつくと、瑜伽ナル・ヨル秘密修験サン・ナクの大密画のある、うつくしい部屋にかされていた。黄色い絹の天蓋に、和闐ホータン絨緞じゅうたん。一見して、活仏げぶつの部屋であるのが分る。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
時としては書棚のいろいろな書物の間に、時としては床の絨緞じゅうたんの下に隠していることも、とうの昔から知ってい
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日が一ぱいにして絨緞じゅうたんの花のもやうが燃えるやうに見えました。てかてかした円卓まるテーブルの上にまっ白なさらがあってその上に立派な二房の黒ぶだうが置いてありました。
黒ぶだう (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
二階に絨緞じゅうたんが敷かれ洋館になった。お母さんが珍しく外出すると思ったら月琴げっきんを習いにゆくのだった。譜本をだして父に説明していた、父は月琴をとって器用に弾いた。
自分の両足の下の藍色の絨緞じゅうたんと、その上に散乱した料理や皿の平面が、前後左右にユラリユラリと傾きまわるばっかりで、どうしても考えを纏めることが出来なかった。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まことに美しい掛け時計、美しい絨緞じゅうたん、美しい召し使いの服装である。こんなものはどんなにかわずらわしいにちがいない。おお私はこんな贅沢物なんかは実にいやである。
黒き箪笥のそばに、廊下よりるようになりおる入口あり。右手の壁の前には、窓に近き処に寝椅子あり。これに絨緞じゅうたんを掛く。その上にはまた金糸きんしぬいある派手なるきれひろげあり。
そこは日本の畳の上に絨緞じゅうたんを敷いて、椅子やテーブルをならべてあるのであった。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入り口から引き続いて長い廊下一面に敷き詰めた絨緞じゅうたんにも、どっしりとしたオークの椅子卓子テーブルやあるいは、重く垂れたとばり、そこから見えるよく手入れのゆき届いた美しい庭の芝生や木立ち等
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ここは南蛮屋の奥座敷、屋号に似つかわしい南蛮風の部屋で、青い絨緞じゅうたん、オレンジ色の壁、白堊はくあの天井、黒檀細工こくたんざいくの円卓、ギヤマン細工のランプなど、この時代には珍しい、異国趣味が漂っている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空は海綿に以た大きな雲で覆われていた。また、鉄板の腰衣をまとった男女の大理石像もあった。人々は足音も聞えないほど柔かな絨緞じゅうたんの上を歩いていった。
時としては床の絨緞じゅうたんの下に隠していることも、とうの昔から知っている。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旦那様は、たしかに居間の絨緞じゅうたんのうえにだいにのびて死んでいた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
秀麿のくわえている葉巻の白い灰が、だいぶ長くなって持っていたのが、とうとう折れて、運動椅子にり掛かっている秀麿のチョッキの上に、細いうろこのような破片をめて、絨緞じゅうたんの上に落ちて砕けた。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
応接間の立派な絨緞じゅうたんで靴の泥を存分に押しぬぐってくれた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ある夕方、ややせたあたたかい色彩の東方産の絨緞じゅうたんのような柔らかい空が、薄暗い都会の上に広がってる時、クリストフは河岸通りに沿って、ノートル・ダームからアンヴァリードの方へやって行った。