紺屋こんや)” の例文
それはちょうど、紺屋こんや藍瓶あいがめの中へ落ちた者が、あわてふためいて瓶からい上るような形であります。かおも着物も真黒でありました。
「どうせ、おめえやうに紺屋こんや弟子でしてえな手足てあし牛蒡ごばうでもかついであるくのにや丁度ちやうどよかんべ」復讎ふくしうでも仕得しえたやうな容子ようすぢいさんはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三十三じょってある石標せきひょうを右に見て、紺屋こんやの横町を半丁ほど西へ這入はいるとわが門口かどぐちへ出る、いえのなかは暗い。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さても常樂院は紺屋こんや五郎兵衞を初め四人の者共に威を示し甘々うま/\と用金を出させんと先本堂ほんだうの客殿にしやうれいの正面のみす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かくて紺屋こんや七兵衛かくれゐたる戸棚とだなよりはひいで、さてもおそろしきものを見つる事かな、いかに法師なればとてよくぞ剃刀かみそりをあて玉ひたる、たゞ見るさへおそろしかりき
そういう町々には、紺屋こんや町とか箪笥たんす町とか塗屋ぬしや町とか鋳物師いもじ町とか呼ぶ名さえ残ります。日本におけるそういう町の名を集めたら、面白い一冊子さえ編めるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それから糸にしてからも、こんは手染めができないので、あの頃ぽつぽつできていた職業の紺屋こんやあつらえて染めさせ、はたを立てる段になって始めて女の手わざに移ったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう町には灯がともっていた。伏原半蔵の間借りしている紺屋こんやの二階を訪ねてみると
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「万有世界の哲学的象徴とでも云うんだろう。よく一人の頭でこんなに並べられたもんだね。紺屋こんや上絵師うわえしと哲学者と云う論文でも書く気じゃないか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もよほ講中かうちうの内にて紺屋こんや五郎兵衞蒔繪師まきゑし三右衞門米屋六兵衞呉服屋ごふくや又兵衞の四にんを跡へ止め別段べつだん酒肴しゆかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
東京には箪笥たんす町とか鍛冶かじ町とか白銀しろがね町とか人形にんぎょう町とか紺屋こんや町とかゆみ町とかにしき町とか、手仕事にちなんだ町が色々ありますが、もう仕事の面影おもかげを残している所はほとんどなくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鍛冶かじ町だの、槍町だの、紺屋こんや町だの、畳町だの、職人色に町がわかれていた。大工町の半瓦の家は、その中でひどく変っていた。屋根の半分が瓦でいてあるのが、誰の眼にもついた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○さるほどに源教げんけういほりにかへりて、朝日あけのひ人をたのみて旧来としごろしたしきおなじ村の紺屋こんや七兵衛をまねき、昨夜かう/\の事ありしとおきく幽霊いうれいの㕝をこまかにかたり、お菊が亡魂まうこん今夜こよひかならずきたるべし