玻璃ガラス)” の例文
春蚕はるごの済んだ後で、刈取られた桑畠くわばたけに新芽の出たさま、林檎りんごの影が庭にあるさまなど、玻璃ガラスしに光った。お雪は階下したから上って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
室内が煙で一ぱいになつたので南側の玻璃ガラス窓を開けた。何時しか夕暮が迫つて大川の上を烏が唖々と啼いて飛んでゐた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一つ登れば、そのまま次に玻璃ガラスを張ったような蒼い氷の壁が現われる。八寒地獄の散歩道プロムナードもかくやと思われるばかり。
「クラウディオ・アクワヴィバ(耶蘇ジェスイット会会長)回想録」中の、ドン・ミカエル(千々石のこと)よりジェンナロ・コルバルタ(ヴェニスの玻璃ガラス工)に送れる文。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
二重ふたへ玻璃ガラス窻を緊しく鎖して、大いなる陶炉に火を焚きたる「ホテル」の食堂を出でしなれば、薄き外套を透る午後四時の寒さは殊さらに堪へ難く、はだへ粟立あはだつと共に
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分は南向きの窓の下で玻璃ガラス越しの日光をけながら、ソンネットの二、三編も読んだか。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
黒眼鏡は、その黒い玻璃ガラスの奥で、お光さんの顔を、恐怖にみちた目で見つめたままだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何時の間にやって来て、いつ動き出すか分らないが、きまったように窓窓にカーテンをおろしながら、街燈と街燈との間の暗みに、にぶい玻璃ガラス窓を光らしながら置かれてあった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
箪笥の上には高価な指輪が二つと、ダイヤ入りのブローチが一つ、元のままに載っていて、陳列玻璃ガラス函の中の骨董品にも手を触れた形跡がなく、へやの中は整然きちんとなっていたそうです。
三田は縁側の玻璃ガラス戸をしめて、寢床の上に大の字になつた。風に吹かれてゐる間は、すつかり醉もさめた氣でゐたが、横になつて見ると深酒ふかざけの名殘は蒸暑く胸から上に押上げて來た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
廊下に向かった巌丈がんじょうな扉へ、錠をしっかりおろしてから、沙漠に面した玻璃ガラス窓へも用心の為に鍵をい、レースの窓掛カアテンを引いてから、虫捕香水を布団へ振りかけ、それで安心したと見え
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
相手の手には埃で袋でもかぶせたようになった一本の玻璃ガラス壜が握られていた。
おもての平でない玻璃ガラスの爲めに、水淺葱あさぎに金茶の模樣が陽炎を透かしての如くきらきらといかにも氣持よく見える。一列の布の上に、遙かに黒き、其輪郭は廣重的に正しい梅村(?)橋が横はつて居る。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
今日はあたかも玻璃ガラスの中の物をのぞいて見てるように明麗であった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ごとごとぶるぶるゆれて顫へる窓の玻璃ガラス
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
どうかすると窓の玻璃ガラスへ頭を打ちつけた。それほど、身体をささえることが出来なかった。新橋へ入ったのは未だ日の暮れない頃であった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日ごろ鈍感なるコン吉も事態ここに至っては猛然憤起、無情にも眼の前に固く閉ざされた玻璃ガラス扉をたたいて
壁は落ち、ふすまは破れ、寒い透間の風はしん/\と骨を刺すやうに肌身を襲ふにしても、潤んだ銀色の月の光は玻璃ガラス窓を洩れて生を誘ふがに峽谷の底にあるやうな廢屋はいをくの赤茶けた疊に降りた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
冷たい玻璃ガラス板へ息が曇っているように秋の特有な星雲が空に夜更けていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二月の末から三月へかけて、暖い日には宿の玻璃ガラス戸の外を、海の方から來る鴎の群が、雪白の翼をひるがへして飛ぶ長閑な日もあつたが、終日その玻璃戸をがたがた鳴らして吹く風の日も多かつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
……建物中の玻璃ガラスの窓が
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
差向ひに椅子に腰掛けたは運動場近くにある窓のところで、庭球テニスきちがひの銀之助なぞが呼び騒ぐ声も、玻璃ガラスに響いて面白さうに聞えたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
玻璃ガラス張りの天蓋まるてんじょうを透して降りそそぐ煦々くくたる二月の春光を浴びながら、歓談笑発して午餐に耽る凡百の面々を眺め渡せば、これはさながら魑魅魍魎ちみもうりょうの大懇親会。
玻璃ガラス障子のところへ寄せて、正太の机が移してあって、その上には石菖蒲せきしょうぶはちなぞも見える。水色のカアテンも色のせたまま掛っている。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
光線の反射の具合で、玻璃ガラスを通して見える子供の写真の上には、三吉自身が薄く重なり合って映った。彼は自分で自分の悄然しょんぼりとした姿を見た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
皆角帯、前垂掛で、お店者たなものらしく客を迎えている中で、全くの書生の風俗なりが、巻きつけた兵児帯へこおびが、その玻璃ガラスに映っていた。実に、成っていなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人が塵払はたきの音のする窓の外を通った時は、岩間に咲く木瓜ぼけのように紅い女の顔が玻璃ガラスの内から映っていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其列車が山へ上るにつれて、窓の玻璃ガラスに響いて烈しく動揺する。しまひには談話はなしく聞取れないことがある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
文平は打球板ラッケットを提げて出て行つた。校長は椅子を離れて玻璃ガラスの戸を上げた。丁度運動場では庭球テニスの最中。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
湯気で曇った玻璃ガラスの面を拭いてみると、狂死した父そのままのあおざめた姿が映っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこは以前書生の居た静かな部屋で、どうかすると三吉が仕事を持込むこともある。家中で一番引隠れた場処である。お種が大事にして旅へ持って来た鏡は、可成かなり大きな、厚手の玻璃ガラスであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れて光る夜の町々の灯——白い灯——紅い灯——電線の上から落ちる青い電光のきらめき——そういうものが窓の玻璃ガラスに映ったり消えたりした。寂しい雨の中を通る電車の音は余計に私を疲れさせた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)