爪繰つまぐ)” の例文
「とに角、三浦屋のお職まで張つた女が、袈裟けさを掛けて數珠じゆず爪繰つまぐり乍ら歩くんだから、ぞうの上に乘つけると、そのまゝ普賢菩薩ふげんぼさつだ」
「して、それは殿様奥様のお頼みでござりまするか。又、あなた方の御相談でござりまするか。」と、住職は珠數じゆず爪繰つまぐりながら不安らしく訊いた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
終夜よもすがら思ひ煩ひて顏の色たゞならず、肅然として佛壇に向ひ、眼を閉ぢて祈念の體、心細くも立ち上る一縷の香煙に身を包ませて、爪繰つまぐる珠數の音えたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
老尼の住んでいるいおりは、昔から伝えられた名をそのままに燈外庵と呼ばれていました。珠数じゅず爪繰つまぐりながら老尼が燈外庵の庵を出ようとすると、若い尼が
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
円い輪になっているものを一粒ずつ数えてゆけば、どこまで数えていっても終局はありません。Kはどんな所でどんな心持がして、爪繰つまぐる手を留めたでしょう。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しさいらしく珠数を爪繰つまぐっては人を笑わせ、愚僧もあの婦人には心が乱れ申したわい、お恥かしいが、まだ枯れて居らん証拠じゃのう、などと言い、私たちを誘って
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
仲のいゝ地主友達が意見かた/″\容子ようすを訊いてみると、長次郎氏はいつものやうに手首の珠数を爪繰つまぐりながら
御本堂への御つとめ許し賜はらば格別の御利益りやくたるべしと、念珠、殊勝爪繰つまぐりて頼み入りしにの寺男、わが面体めんていの爛れたるをつく/″\見て、まことの非人とや思ひけむ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼がそういう話をしてしまった時に、院長は大念珠を爪繰つまぐるのをやめて、そして言った。
サラサラ、サラサラと好い音をたてて数珠を爪繰つまぐりながら、おらくは涙をこぼした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
羽織は薄い小豆色の縮緬ちりめんに……ちょいと分りかねたが……五ツ紋、小刀持つ手の動くに連れて、指環ゆびわの玉の、幾つか連ってキラキラ人のまなこを射るのは、水晶の珠数を爪繰つまぐるに似て、非ず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄金の十字架くるすを胸に懸けて、パアテル・ノステルを口にした日本を、——貴族の夫人たちが、珊瑚さんご念珠ねんじゅ爪繰つまぐって、毘留善麻利耶びるぜんまりあの前にひざまずいた日本を、その彼が訪れなかったと云う筈はない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
アコ長は、ボッテリした顎の先をのんびりと爪繰つまぐりながら
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と奥様は珠数ずゝ爪繰つまぐり乍らとなへて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この青玉せいぎよくの珠數を爪繰つまぐりしとよ。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
珠數じゆず爪繰つまぐるをつねとする。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
達弁にまくし立てるお染の蔭から、高貴な感じのするほど美しいお雛が、八丈はちじょうたもと爪繰つまぐるように、おどおどした顔で平次を見守ります。
内には寂然として人なきが如く、只〻簾を漏れて心細くも立迷ふ香煙一縷、をりをりかすかに聞ゆる戞々の音は、念珠を爪繰つまぐる響にや、主が消息を齎らして、いと奧床し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
院長は念珠を少し爪繰つまぐった。フォーシュルヴァンは黙っていた。院長は言い進んだ。
のがれつべうもこそあらじと見えつるが、虹汀少しも騒ぐ気色けしきなく、ひ奉りし仏像を馬士まごに渡し、網代笠あじろがさの雪を払ひて六美女に持たせつ、手に慣れし竹杖を突き、衣紋えもんつくろ珠数じゅず爪繰つまぐりつゝ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、住職は数珠じゅず爪繰つまぐりながら不安らしく訊いた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寂寞せきばくとして水晶の数珠爪繰つまぐりて泰然たり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この青玉せいぎよく珠数じゆず爪繰つまぐりしとよ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「とにかく、三浦屋のお職まで張った女が、袈裟を掛けて数珠じゅず爪繰つまぐりながら歩くんだから、象の上に乗っけると、そのまま普賢菩薩ふげんぼさつだ」
院長はその大念珠を爪繰つまぐっていたが、目を上げて言った。
達辯たつべんにまくし立てるお染の蔭から、高貴な感じのするほど美しいお雛が、八丈のたもと爪繰つまぐるやうに、おど/\した顏で平次を見守ります。
妾のお源は殊勝らしく數珠じゆずなど爪繰つまぐつてをりますが、身體は思ひの外立派で、ずゐぶん半盲の大男一人を、殺せないことはないかも知れません。
見ると早くも黒髪を、襟のあたりで切り落して、しおらしく珠数などを爪繰つまぐって居るではありませんか。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
青々としたり立ての頭、目鼻立ちも醜くはなく、念珠を爪繰つまぐって仏の御名を口から絶やさないのと、竪川べりを通る時は、贅沢な素人釣の後ろに立って、一くさりの経文きょうもん手向たむける癖があるので
蓼斎はそう言って、思い出したように数珠じゅず爪繰つまぐるのでした。
八五郎は懐の捕縄を爪繰つまぐりました。
八五郎は懷の捕繩を爪繰つまぐりました。