濃厚のうこう)” の例文
風俗ふうぞく派手はででない、をんなこのみ濃厚のうこうではない、かみかざりあかいものはすくなく、みなこゝろするともなく、風土ふうどふくしてるのであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それに、まぐろの脂肪がすこぶる濃厚のうこうでありながら、少しも後口あとくちに残らぬという特徴があって、まさに東京名物として錦上きんじょうはなを添えている。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
これだけの事は、錢形の平次も聞き知つて居りましたが、改めて關係者の口から聞くと、なるほど事件の裏には濃厚のうこうな犯罪の匂ひがありさうです。
青流亭せいりゅうてい女将おかみ進藤富子しんどうとみこも、工学士こうがくし中内忠なかうちただしも、刈谷音吉かりやおときち毒殺犯人どくさつはんにんとしての容疑ようぎは、かなり濃厚のうこうだとてよいのだろう。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
と、その痛嘆を書きつけているがごときものが、一般の世態にも、もっと濃厚のうこうに露骨に見られていたであろう。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくしてみじかかたむいた。やしろもりつゝんで時雨しぐれくもひがしそらぱいひろがつた。濃厚のうこう鼠色ねずみいろくもすごひとせまつてるやうで、しかもくつきりともりかした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
初夏のみどりで全山がおおわれ、眼にうつるもの悉くみどりといった中で、私は目まいしそうな状態になることがある。濃厚のうこうな葉緑素が身体にしみいって、酔ったような気持になる。
僕は自分にかけられた濃厚のうこう嫌疑けんぎに立腹し、どうにかして犯人をつきとめてやりたいものと思い、自分だけでは素人しろうと探偵になった気で、所内の皆からいろいろの話を集めてまわった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このうわさは日一日と濃厚のうこうになった、生徒の二、三が他の先生達にきいた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
コケットの様な濃厚のうこうなお化粧けしょうをいつもしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大根だいこんは、一たん地上ちじやうみどりうばうて透徹とうてつしたそら濃厚のうこうみどり沈澱ちんでんさせて地上ちじやういた結晶體けつしやうたいでなければならぬ。晩秋ばんしう只管ひたすらしづまうとのみしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いったい蛮土ばんどの物は濃厚のうこうで、日本の物は淡味たんみです。菓子でも、干柿ほしがきもちの甘味で、十分舌に足りていたものが、砂糖に馴れると、もうそれでは堪能たんのうしなくなります
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)