潔癖けっぺき)” の例文
とにかく、この人はどこへ持って行っても大丈夫な人だ。潔癖けっぺき倫理的りんりてきな見方からしても大丈夫だいじょうぶだし、最も世俗的な意味からっても大丈夫だ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なぜなら私情を殺した女支配者の沈静な観察にえて最大の信任をはくしたのだから。彼女は貞淑ていしゅくであり、潔癖けっぺきであり、忠誠であったに相違ない。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
どこか潔癖けっぺきなかたくなさをもった老嬢(そのころの私は、二十才以上の未婚の女はみんな婆サンだと思っていた)
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
けだし負傷は軽微けいびにして天稟てんぴんの美貌をほとんど損ずることなかりき。その人に面接するをいといたるは彼女が潔癖けっぺきの致すところにして、取るにも足らぬ傷痕を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ぜかといえば、この宿場の猫背の馭者は、まだその日、誰も手をつけない蒸し立ての饅頭に初手しょてをつけるということが、それほどの潔癖けっぺきから長い年月の間
(新字新仮名) / 横光利一(著)
自分が愛せられることだけに夢中になっていた彼には、恭一の潔癖けっぺきな気分がよくのみこめなかったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かの女はかの女の強情ごうじょうをも、傲慢ごうまんをも、潔癖けっぺきをも持てあまして居た。そのくせ、かの女は、かの女の強情やそれらを助長じょちょうさすのは、世の中なのだとさえ思って居る。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
洒落しゃれ潔癖けっぺきからのものではなく、少年の頃、逆境と漂泊のあかにまみれて、ふた月も三月も、湯になどゆあみしなかったことはままあったので、その当時の慾望が
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿が自殺したことは記録にない。あれは人間でないとやれないことだ。ここだけの話だが、日本人は世界中で一番崇高すうこうで一番潔癖けっぺきで一番道徳の高い民族だ。あれで生産力を
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分のからだにだけは非常ひじょう潔癖けっぺきであって、シャツとか前掛まえかけとかいうものは毎日あらっている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
春琴居常潔癖けっぺきにしていささかにてもあか着きたる物をまとわず、肌着はだぎ類は毎日取換とりかえて洗濯せんたくを命じたりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いや、どんな事件か、わしはなんにも知らん。ただはっきり言えるのは、彼奴あいつはなかなかのしっかり者で、婦人に対してもすこぶる潔癖けっぺきだから、その点は心配しないように」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この点、まだ現代の女性はイージーでセンチで安価あんか妥協だきょうをしてしまうのが多い。異性に対し、もっと高貴こうきたしか潔癖けっぺきを持ってもらい度い。潔癖のない女ほど下等で堕落だらくやすいものはない。
こういう風格のある人に、まま見られる一短所は、謹厳自らを持す余りに、人を責める時にも、自然、厳密に過ぎ峻酷しゅんこくに過ぎる傾きのあることである。潔癖けっぺきは、むしろ孔明の小さいきずだった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここへ来る前、星野社長はわざわざ、帆村の潔癖けっぺきを保証したが、その話とはちがって、彼はとんでもない痴漢ちかんであった。六条子爵の場合よりも、もっともっと露骨ろこつ下卑げびている。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしはわたくしの生きて行く信念と好みの潔癖けっぺきから家庭の者にこう仕向けないではられないのです。近年は随分ずいぶんヒステリックな他に居つけなかった女中などが長く居てれます。
その高いこずえが夕日に染まるたび、きまってたくさんなからすが一しきりさわぎぬくのだった。ろうたけた人々がいかに潔癖けっぺきみやびやかを守っても、夜の野良犬と夕方の鴉と朝の牛のふんだけは除かれなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この少女は、はちきれるような素晴らしい肉体を持っているのに、精神的には不感性ふかんしょうに等しく、無類の潔癖けっぺきだった。すべて彼女の背後にある厳格な教育が、彼女をそうさせたのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこにはまた、雪子といふ第三者が入り込むのを潔癖けっぺきに嫌ふいこぢさもあつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
と、五百之進いおのしんは、潔癖けっぺきまゆをして、気味悪そうに、顔をそむけた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、それは潔癖けっぺきにいうと、製造ではないし、もちろん創造ではない。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よほど細心で潔癖けっぺきな兄であったことを、彼は今も、気づいて来た。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(4) 潔癖けっぺきな夫
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
相手の二人の間には、今もまだ芝居めいたものが感じられたが、そうまで言われて、仏天青は、これ以上、すね者扱ものあつかいされるのがいやだった。それは、彼の短気というか、潔癖けっぺきのせいであったろう。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
われわれの情美感や潔癖けっぺきは、むしろ不快をさえ覚える話である。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だって先生、科学的には非常に信用が置けるし、言うことも普通であるし、友誼ゆうぎ潔癖けっぺきであるほど厚いし、ことに細君のことなど潔癖で、細君が死んでから他の女には絶対に接しなかったという程の人格者としてはおかしいですが」