湧出わきだ)” の例文
正木博士の話から湧出わきだして来る一種の異妖な気分に魅せられて、何となく狂人きちがいじみた不可思議な疑いが、だんだんこうじて来るのを感じながら……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
温泉は六ヶ所ほどに湧出わきだし、量もすこぶる豊富であるが、代々湯太夫ゆとうたる、土豪本多氏の私有に属し、今におよんでいることが他の温泉と趣きを異にする。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
そこらになまずでも湧出わきだしそうな、泥水の中へ引摺込ひきずりこまれそうな気がしたんで、骨まで浸透しみとおるほど慄然々々ぞくぞくするんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松本が周章あわてて起たんとする時賛成々々の声四隅に湧出わきだして議長の意見を嘉納しおほせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
温泉は川岸から湧出わきだしまして、石垣で積上げてある所を惣湯そうゆと申しますが、追々ひらけて、当今は河中かわなかの湯、河下かわしもの湯、儘根まゝねの湯、しもの湯、南岸みなみぎしの湯、川原かわらの湯、薬師やくしの湯と七湯しちとうに分れて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『おねんご受取うけとろ。』とふのが、何処どこからこゑか、一本竹いつぽんだけつたなかから、ぶる/\湧出わきだす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その一粒が消えかかった炭火の上に落ちたらしくチューチューと音を立てたが、その音を聞いているうちに又も新しい涙が湧出わきだして来るのを、彼はドウする事も出来なかった。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
正「いえ全く御世辞じゃアないので、真から湧出わきだしたのでげす、ちょいとの箱の中にる目貫を一つ取っても千両にもなるんですが、盗めばすぐに露顕しますからごまかすことは出来ませんが」
ひゞきで、いまところへ、熱湯ねつたう湧出わきだいた。ぢやがさ、天道てんだうひところさずかい。生命いのちだけはたすかつても、はうまうの分別ふんべつなんだところ温泉をんせんさかつてたで、うやら娑婆しやばかたちつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くらおくから、黄金色こがねいろ赤味あかみしたくもが、むく/\と湧出わきだす、太陽たいやう其処そこまでのぼつた——みぎはあしれたにも、さすがにうすひかりがかゝつて、つのぐむ芽生めばえもやゝけぶりかけた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もくもくもくと湧出わきだす水で、真赤まっかな血を洗いながら
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)