氷室ひむろ)” の例文
ほんに、今日こそ、氷室ひむろ朔日ついたちじゃ。そう思う下から歯の根のあわぬような悪感を覚えた。大昔から、暦はひじりあずかる道と考えて来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
折々、氷室ひむろのような沈黙と、夜気に墨を吐く燭のゆらめきが、座中八十余名の酔顔を、酒の気もないように白々と見せるのだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
延喜式えんぎしきに山城国葛城郡かつらきごほり氷室ひむろ五ヶ所をいだせり、六月朔日氷室より氷をいだして朝庭てうてい貢献こうけんするを、諸臣しよしんにも頒賜わかちたまふ年毎としごとれいなるよしなり。
遡航そこう氷室ひむろ山の麓は赤松の林と断崖のほそぼそとした嶮道けんどうに沿って右へ右へと寄るのが法とみえる。「これが犬帰いぬがえりでなも」とうしろから赤銅しゃくどうの声がする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
私が目ざしてゆくのは杉林の間からいつも氷室ひむろから来るような冷気が径へ通っているところだった。一本の古びたかけひがその奥の小暗いなかからおりて来ていた。
筧の話 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
孫賈は、孔子の否定的な答を充分豫期してはいたものの、孔子の態度や言葉つきに、いつもに似ぬ辛辣さを感じて、氷室ひむろにでも投げ込まれたように、身をすくめた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
なぎなた町にあるその家は、いつもひっそりとして、氷室ひむろのように湿っぽく、暗く、そして冷たかった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また氷室ひむろの御祝儀ともいって、三月三日の桃の節句、五月五日の菖蒲しょうぶの節句、九月九日の菊の節句についで古い行事で、仁徳天皇の御代にやまべの福住ふくずみの氷室の氷を朝廷にたてまつって以来
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
氷室ひむろ朔日ついたちと云って、わかい娘が娘同士、自分で小鍋立こなべだてのままごとをして、客にも呼ばれ、呼びもしたものだに、あのギラギラした小刀ナイフが、縁の下か、天井か、承塵なげしの途中か、在所ありどころが知れぬ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日から、そんな氷室ひむろのある林のなかの空地は明の好きな場所になった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
低い掘通トンネルから灰の一インチも溜まっている停泊用釜ドンキ・ボイラへ這上って、両脚が一度に這入らない程の穴から為吉は水管の組合っているボイラの外側へ身を縮めた。火の気のない釜の外は氷室ひむろのように冷えていた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
氷室ひむろを舞う時に着ける面」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
延喜式えんぎしきに山城国葛城郡かつらきごほり氷室ひむろ五ヶ所をいだせり、六月朔日氷室より氷をいだして朝庭てうてい貢献こうけんするを、諸臣しよしんにも頒賜わかちたまふ年毎としごとれいなるよしなり。
ここ、あらゆる行事や行幸いでましも見あわせられて、夜の御殿みとのも、昼の御座ぎょざも、清涼殿せいりょうでんいったいは巨大な氷室ひむろことならなかった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明は相変らず、氷室ひむろの傍で、早苗と同じようなあいびきを続けていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ほどほどに機械うごかす短か日の氷室ひむろの氷見にも寄るなり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
氷室ひむろは水のこほりををさめおくやうに諸書しよしよ注釈ちゆうしやくにも見えしが、水の氷れるは不潔ふけつなり、不潔をもつて貢献こうけんにはなすべからず。
見ずや、許都の府は栄え、曹操の威は振い、かの銅雀台どうじゃくだいの春の遊びなど、世の耳目じもくうらやますほどのものは聞くが、ここ漢朝の宮廷はさながら百年の氷室ひむろのようだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河岸かし氷室ひむろの壁も、はた、ただに真昼の
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
氷室ひむろです。」
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
氷室ひむろは水のこほりををさめおくやうに諸書しよしよ注釈ちゆうしやくにも見えしが、水の氷れるは不潔ふけつなり、不潔をもつて貢献こうけんにはなすべからず。
朽葉を踏むわらじの緒、脚絆までが、清水に濡れて、夏とは云え、氷室ひむろ辿たどるような山気が冷々と迫る。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○さて氷室ひむろとは厚氷あつきこほりを山蔭などの極陰ごくいんの地中に蔵置おさめおきいへを作りかけて守らす、古哥にもよめる氷室守ひむろもり是なり。
また——次の部屋にひかえて、都の消息はいかにと耳を澄ましていた弟子の人々も、氷室ひむろのようにしいんとしてしまった。冷たいものがすべての人の姿を撫でた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○さて氷室ひむろとは厚氷あつきこほりを山蔭などの極陰ごくいんの地中に蔵置おさめおきいへを作りかけて守らす、古哥にもよめる氷室守ひむろもり是なり。
しかし、法師の説法でも、氷室ひむろの女心は解けもせず、ひき退がりました。あとは殿との相対あいたいにおまかせするしかありませぬ。ゆめ、胸わるくおとりくださいますな——
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氷室ひむろのような冷気を感じながら天堂とお十夜孫兵衛、洞窟の奥へスルスルと這い進んで行った。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鬱勃うつぼつたる二十九の胆と血しおとは、時折、そうして抹香まっこう氷室ひむろへ入れて冷却する必要もあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西洞院にしのとういんの別荘へゆけば、そこにもまた、冬のままに閉した病間が、氷室ひむろのように彼を迎えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝右衛門は、はいるとすぐ、消えがてにまたたく燭台を横にして、半明半暗はんめいはんあんのさかいに、氷室ひむろのような部屋の寒さにじっと耐えて坐っている六十がらみの一個の老武人をそこに見出した。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中に、幾つかの部屋は、氷室ひむろのように、しいんとしている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家の中は氷室ひむろです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)