水仙すいせん)” の例文
紺三郎なんかまるで立派な燕尾服えんびふくを着て水仙すいせんの花を胸につけてまっ白なはんけちでしきりにそのとがったお口をいているのです。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たゞ何事なにごとはづかしうのみありけるに、しもあさ水仙すいせんつくばな格子門かうしもんそとよりさしきしものありけり、れの仕業しわざるよしけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
旅人たびびとは、みちばたに水仙すいせんはなゆめのようにいているのをました。また、やまなつばきのはないているのをました。
島の暮れ方の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてこの水仙すいせんの花を、中国人は金盞銀台きんさんぎんだいと呼んでいる。すなわち銀白色の花の中に、黄金おうごんさかずきっているとの形容である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
長三郎に魁車かいしゃがつきあうのやけれど、すいた水仙すいせんのところなんか、何だか変なもんや。私いくつ時分だったか、一本歯をはいて、ここの板敷を毎日毎日布を
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
着物は——黒い絹の地へ水仙すいせんめいた花をまばらい取った肩懸けが、なだらかな肩から胸へかけて無造作むぞうさに垂れているよりほかに、何も俊助の眼には映らなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひるの前後はまた無闇むやみあたたかで、急に梅が咲き、雪柳ゆきやなぎが青く芽をふいた。山茱萸さんしいは黄色の花ざかり。赤いつぼみ沈丁花ちんちょうげも一つ白い口をった。春蘭しゅんらん水仙すいせんの蕾が出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三ガ日の間書斎の掃除そうじをしなかったので、今日の午後、夫が散歩に出かけた留守に掃除をしにはいったら、あの水仙すいせんけてある一輪揷いちりんざしの載っている書棚しょだなの前に鍵が落ちていた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、いま、ベッドに腹這いになって、鉛筆をなめなめ、考え考えして、一字、一字、書きすすめ、もう、死ぬるばかり苦しくなって、そうして、枕元の水仙すいせんの花を見つめて居ります。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
嫌います。それに、色も知っているし記憶力もたしかです。また、相当な学習能力もあります。それで、いつもあたしが使っている水仙すいせん色の封筒ね、あれを、構内のポストに入れるのを
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
暖かい水蒸気が大地からのぼって、その中に水仙すいせんの黄色い花が鮮かに浮び上ってみえる。縁先で陽の光りを浴びながら、この頃になると、私は自分の半生に経験した様々の春をおもい出す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
白いチューリップや水仙すいせんの中を、こうの鳥が堂々と歩を運んでる新鮮な牧場、大きな翼のつばめはとの群れが飛んでる澄みわたった空気、雨間を貫く日光の楽しさ、雲間に笑う輝いた空、夕のおごそかな清朗さ
そしてこの層をなしている部分は、実に葉のもとがさやを作っていて、その部には澱粉でんぷんたくわえ自体の養分となしていること、ちょうど水仙すいせんの球根、ラッキョウの球根などと同様である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
元来がんらい水仙すいせんは昔中国から日本へ渡ったものだが、しかし水仙の本国はけっして中国ではなく、大昔遠く南欧なんおうの地中海地方の原産地からついに中国にきたり、そして中国から日本へ来たものだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)