歿後ぼつご)” の例文
M先生の歿後ぼつご、思いがけなく自然ひとりでに地位の押し進められていることは、自分の才分に自信のない笹村にとって、むしろ不安を感じた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蕪村歿後ぼつごに出版せられたる書を見るに、蕪村画名の生前において世に伝わらざりしは俳名の高かりしがために圧せられたるならんと言えり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
然れどもその画風筆力の著しき進境を示したるは歌麿の歿後ぼつご、文化中葉ちゅうようの事にして、年既に四十歳を越えてよりのちの事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これはすでにキュリー夫人の歿後ぼつごでありましたが、しかしそのすぐれた教育の効果がここに実を結んだのだとわなければならないのでしょう。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 石原純(著)
創作力のない彼女は、川上歿後ぼつごも彼れによってまとめてもらった俳優の資格を保守するに過ぎなかったが、時流はグングンと急激に変っていった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
父は母の歿後ぼつご、後妻ももらわないで不自由をしのんで来たのであったが、かげでは田舎者と罵倒ばとうしている貝原からめかけに要求され
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
歿後ぼつごに落ち散ることになってはならぬと気がかりにいたしながら、この宮へ時々あなた様が御訪問においでになることがあるようになりましてからは
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この頃亡兄は結核であったといわれるようになりましたが、主人も歿後ぼつご解剖の結果、結核だとせられました。解剖家は死後解剖するという契約なのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
孔明歿後ぼつごの推移も知りたいとなす読者諸氏も少なくあるまいから、それはこの余話の後章に解説することにする。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを奥の人たちが師匠歿後ぼつご早々取り出し調べて見ると、勘算してちょうど五十円ほどありました。
先々代の藩主、安房守正刻あわのかみまさときの側室に——といっても国許のことだから公式ではないが——松室よりという人があり、安房守の歿後ぼつごその菩提をとむらうため尼になった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
孝孺こうじゅしゅうは、そのひと天子のにくむところ、一世のむところとなりしをもって、当時絶滅に帰し、歿後ぼつご六十年にして臨海りんかい趙洪ちょうこうに附せしより、またようやく世に伝わるを得たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二葉亭ふたばてい歿後ぼつご坪内つぼうち、西本両氏とはかって故人の語学校時代の友人及び故人と多少の交誼こうぎある文壇諸名家の追憶または感想をい、集めて一冊として故人の遺霊に手向たむけた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
家臣たちに迎えられて広忠が岡崎城に帰る日が来た頃には、吉良一族は、城主持広の歿後ぼつご戦乱の波にもまれて今川勢の強襲に遭い、藤浪なわてよろいふちの戦いにもろくも敗れた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
義父丹後守の歿後ぼつごは、御小姓組御番頭と役附にはなりましたが、一面、丹後守の娘で、自分とは從兄妹いとこの間柄なる本妻の綾野あやのを嫌ひ、到頭一年經たないうちに、柳橋藝者のお勝を
この後、ルムフォード伯は自宅に引っ込み勝ちで、ことにラグランヂュの歿後ぼつごは、二、三の友人(ことにキュービエー)と交わっただけで、一八一四年八月二十一日にパリで死んだ。
父親の百之丞ひゃくのじょうが松前の家老として忠勤をはげんだおかげで、親の歿後ぼつごも、その禄高ろくだかをそっくりいただき何の働きも無いくせに重役のひとりに加えられ、育ちのよいのを鼻にかけて同輩をさげすみ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
同君歿後ぼつごに、馬場孤蝶こちょう君は交遊の日のことを追想して、こんなに亡くなった後になってよく思い出すところを見ると、やはりあの男には人と異なったところがあったと見えると言われたのも同感だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
アンポンタンはこの祖父おじいさん歿後ぼつご、母が嫁して来たので、生きていた日は知らないが、善良な小市民の見本であったらしい。
兄エドモン・ド・ゴンクウルは弟ジュウルの歿後ぼつごそのよわいようやく六十に達せんとするの時、あらたに日本美術の研究に従事しまず歌麿うたまろ北斎ほくさい二家の詳伝を編纂へんさんせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その歿後ぼつご、祖母には経済の才があると、兼ねて聞えていたのでしたから、再縁を勧める人が多い内に、藩でも有名な富豪の某家から是非にと望まれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
夫人の歿後ぼつごは愛欲を離れて、だれよりもすぐれて故人の愛していた女房であったとお思われになることによって、形見と見てこの人に院は愛を持っておいでになった。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
年は光辰より一つ若く、十四歳のときから小小姓こごしょうにあがって、ずっと側近に仕えたらしい。光辰の歿後ぼつご剃髪ていはつして泉阿弥となのり、終生、故君の墓守をしたと伝えられている。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
歿後ぼつご遺文を整理して偶然初度の原稿を検するに及んで、世間に発表した既成の製作と最始の書き卸しと文章の調子や匂いやあじわいがまるで別人であるように違ってるのを発見し
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
側用人丹下村右衞門は先代志摩守しまのかみ歿後ぼつごドサクサまぎれに三萬六千兩の黄金と、おびたゞしい財寶骨董をこの土藏に取込み、山崎家取潰しの時これを目録もくろくから除外させて、ほとぼりのさめた後
鹿島神宮の武林ぶりんに入って、天真神道流の研鑽けんさんに身をゆだね、元亀何年かには、越後の上杉謙信の幕将、松田尾張守に随身して、戦場をも馳駆したらしいが、謙信の歿後ぼつごは、ようとして
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倉持は幼い時に父にわかれ、倉持家にふさわしい出の母の手一つに育てられて来たものだったが、法律家の渡弁護士が自然、主人歿後ぼつごの倉持家に重要な地位を占めることとなり、年の若い倉持にほ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夫人の歿後ぼつごは異性をお求めになるようなお心は戯れにもお持ちになることはなかった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
側用人丹下村右衛門は先代志摩守歿後ぼつごドサクサまぎれに三万六千両の黄金と、おびただしい財宝骨董をこの土蔵に取込み、山崎家取潰しの時これを目録から除外させて、ほとぼりのさめた後
女王の歿後ぼつごの日はずんずんとたっていく。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)